PTC PERFORMANCE SPACE(One of the home of NYMF) 7/14/2015

[ゆけむり通信Vol.120]

7/13-7/19/2015


  • 7月13日21:00
    『モーゼズ・マン MOSES MAN』(NYMF)
    ALICE GRIFFIN THEATRE(at Pershing Square Signature Center) 480 West 42nd Street
  • 7月14日13:00
    『アカペラ ACAPPELLA』(NYMF)
    PTC PERFORMANCE SPACE 555 West 42nd Street
  • 7月14日17:00
    『スポット・オン・ザ・ウォール SPOT ON THE WALL』(NYMF)
    THEATER 3 311 West 43rd Street
  • 7月14日19:30
    『ドーター・オブ・ザ・ウィヴズ DAUGHTER OF THE WAVES』(NYMF)
    STUDIO THEATRE(at Theatre Row) 410 West 42nd Street
  • 7月15日13:00
    『ウェアリング・ブラック WEARING BLACK』(NYMF)
    THEATER 3 311 West 43rd Street
  • 7月15日16:00
    『イントゥ・ザ・サン INTO THE SUN』(NYMF)
    STUDIO THEATRE(at Theatre Row) 410 West 42nd Street
  • 7月15日20:00
    『アメイジング・グレイス AMAZING GRACE』
    NEDERLANDER THEATRE West 41st Street
  • 7月16日13:00
    『トニヤ&ナンシー TONYA & NANCY』(NYMF)
    PTC PERFORMANCE SPACE 555 West 42nd Street
  • 7月16日16:00
    『ザ・ゴールド THE GOLD』(NYMF)
    STUDIO THEATRE(at Theatre Row) 410 West 42nd Street
  • 7月16日19:30
    『サヨナラ SAYONARA』
    CLURMAN THEATRE(at Theatre Row) 410 Wewt 42nd Street
  • 7月17日12:00
    『リアル・マン REAL MAN』(NYMF)
    LAURIE BEECHMAN THEATRE 407 West 42nd Street
  • 7月17日16:00
    『レールズ RAILS』(NYMF)
    STUDIO THEATRE(at Theatre Row) 410 West 42nd Street
  • 7月17日20:00
    『シングル・ワイド SINGLE WIDE』(NYMF)
    PTC PERFORMANCE SPACE 555 West 42nd Street
  • 7月18日14:00
    『ハミルトン HAMILTON』
    RICHARD RODGERS THEATRE 410 West 46th Street
  • 7月18日17:00
    『ナポレオン NAPOLEON』(NYMF)
    ALICE GRIFFIN THEATRE(at Pershing Square Signature Center) 480 West 42nd Street
  • 7月18日21:00
    『ディープ・ラヴ DEEP LOVE』(NYMF)
    ALICE GRIFFIN THEATRE(at Pershing Square Signature Center) 480 West 42nd Street
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 恒例のNYMF(ニューヨーク・ミュージカル・シアター・フェスティヴァル)に絡めてブロードウェイの新登場作2本を観たのが7月。新登場作とは即ち、『アメイジング・グレイス』『ハミルトン』
 なにはともあれ、その2本の感想から。どちらも米大統領オバマが絡みます。

 『アメイジング・グレイス』は、6月25日にプレヴュー開始、7月16日に正式オープン。観たのは正式オープン前日の7月15日の夜公演。
 6月にチャールストンの教会で発生した銃乱射事件の犠牲者の葬儀でオバマ米大統領が歌ったのも記憶に新しい「Amazing Grace」の誕生を巡る物語で、主人公は作詞をしたイギリス人、ジョン・ニュートン John Newton。
 ストーリーをざっくり書くと……。ジョンの父は有力な貿易商で奴隷貿易にも手を染めている。母を早くに失ったジョンは、そんな父に頭を押さえつけられ反発している。一方でジョンは、幼馴染みの女性メアリーを愛している。そのメアリーは、密かに活動する奴隷解放主義者たちと繋がりを持つ。また、ジョンの家には黒人の召使いトーマスがいて、幼い頃からジョンの面倒をみている。そんな人間関係の中、大人になりきれないジョンは、父を乗り越えようとして父と同じ道を歩むことになり、結果的にメアリーもトーマスも裏切る。行き当たりばったりのひどい主人公で、観客としては、いつになったらジョンは奴隷制度の非人間性に気づいて改心するのだろう、と思いながら観ているわけだが、その瞬間は大詰めになるまで訪れない。西アフリカで囚われている(実は囚われた後に彼の地の女王に従って奴隷貿易を指揮していた!)ジョンを救いに来た父が敵の銃弾に倒れて、ようやく過ちに気づき、父の部下たちと共に船で脱出、イギリスを目指す途中で大嵐に遭うのだが、自らを帆柱に縛って九死に一生を得る。そこで神の慈悲に目覚めたジョンは、“回心”して、結果「Amazing Grace」の歌詞が生まれる。
 驚くと言うより呆れるような話だが、文献をあたった限りでは、どうやら大筋は史実に則っているようだ。まあ、これも、ある種の宗教譚として見れば納得できるのかもしれない。実際、多くのアメリカ人観客はそんな風に観ているのではないか。なにしろ最後に、“あの”「Amazing Grace」がキャスト全員によって歌われるわけで、カーテンコールでは客席も自然に合唱に加わる。こうなると、極東から来た無宗教の人間でも、それまでの話と関わりなく最後には感動しそうになる。要するに、そういう構造のミュージカルなのだ。
 街中に数多くの教会があり、それらが、かなりの割合で劇場スペースを備え(この作品のメインのプロデューサー、キャロリン・ロッシ・コープランド Carolyn Rossi Copeland は、その1つであるラムズ劇場の創設者)、そこで、しばしば宗教にまつわるドラマを上演している、というのがニューヨークの一面であってみれば、これも特別変わった趣向ではない。実際、ブロードウェイにも、宗教絡みというより、まっすぐ宗教者を主人公にしたミュージカルすら何本か登場してきている。これは、それらに近い1本、という理解でいいのだろう。
 ところで、肝心の楽曲だが、正直、「Amazing Grace」以外のオリジナルは可もなく不可もない印象。いい役者は揃っているのだが……、もったいない。唯一、西アフリカの場面で現地の伝承歌のように歌われる「Yema's Song」という楽曲のメロディが「Amazing Grace」を髣髴させ(舞台上で言及はされないが、明らかにそういう設定で書かれている)、さらに演奏がミニマルなリズムを内包していて、これは記憶に残る。このアフリカ路線で、もう1曲強力な楽曲があれば、と思わないでもないが、そうなると「Amazing Grace」とのバランスが悪くなるのかもしれないし、微妙か。
 作曲・作詞のクリストファ・スミス Christopher Smith は、これがプロとしての初仕事だそう(ちなみに、彼は脚本もアーサー・ギロン Arthur Giron と共同で担当)。いずれにしても、魅力的な楽曲が題材だけに、音楽的な掘り下げがもっと欲しかった。残念。
 ジョン・ニュートン役=ジョシュ・ヤング Josh Young、メアリー役=エリン・マッケイ Erin Mackey、トーマス役=チャック・クーパー Chuck Cooper 。

 『ハミルトン』は、2008年のトニー賞で作品賞、楽曲賞、編曲賞、振付賞を受賞した『イン・ザ・ハイツ In The Heights』のスタッフ、キャストが再集結して作られた作品。オフ→オンという流れも『イン・ザ・ハイツ』同様で、今年の春にオフのパブリックシアターで幕を開け(そちらは3月21日に観た)、そのままブロードウェイに移ってきた(リチャード・ロジャーズ劇場は『イン・ザ・ハイツ』と同じ)。ブロードウェイの新シーズンは始まったばかりにも関わらず、2015-2016年シーズンのトニー賞はこれで決まり、と思わせる出来で、ついでに言えば、『イン・ザ・ハイツ』が獲得したグラミー賞のミュージカル・ショウ・アルバムでもやはり最有力候補となるだろう。
 ちなみに、こちらのオバマ話は、プレヴューが始まって6日目、7月18日の昼公演を、娘2人を連れて大統領本人が観に来たことで、地元では大きく報じられた。ちなみに、僕が観たのも同じ回。その時の話は、オンライン音楽誌「ERIS」12号に書いたので、興味のある方は読んでみてください。
 さて楽曲だが、『イン・ザ・ハイツ』には、現代のマンハッタンのワシントン・ハイツに住むカリブ海の島を出自とする人々のコミュニティの話であることを反映して、ラップ/ヒップ・ホップとサルサ的なラテン音楽とが見事に融合した躍動的かつ情緒性豊かな楽曲がぎっしり詰まっていた。『ハミルトン』の音楽は、ある意味その発展形だが、違うのは、時代性を無視していること。今回の舞台は独立戦争から19世紀に入ってすぐまでの(主に)ニューヨークだが、音楽的にはほぼ全編がラップ/ヒップホップになっているのだ。
 そして、前作では1曲ごとに楽曲名が付いていたが、今作は楽曲名の表記がプレイビル(無料で配布されるプログラム)にない。つまり、連なった1曲の楽曲だ、という発想なのだと思われる。実際、ほとんど途切れることなく音楽が奏でられているし、伴奏のない箇所もラップで繋ぐので音楽になっている。振り付けられたダンス的な動きや装置の出し入れも含めて、これほど全てが音楽的なミュージカルは、かつてなかったと言ってもいいだろう。さらに言うと、政治家の話なので議論の場面が多数あるのだが、そこをラップで魅力的に聴かせて大受けする見せ場にしているのも見事だ。
 作曲・作詞は『イン・ザ・ハイツ』同様、リン-マニュエル・ミランダ Lin-Manuel Miranda(脚本も)。編曲のアレックス・ラカモア Alex Lacamoire も『イン・ザ・ハイツ』組で、緊密なコンビネーションが素晴らしい。ミランダはニューヨーク生まれのプレルトリコ系、ラカモアはロスアンジェルス生まれのキューバ系だ。
 で、ハミルトン。アメリカ独立戦争でワシントンの副官として活躍、その後、合衆国憲法の草稿作成、批准に尽力し、ワシントン内閣の財務長官も務めたアレグザンダー・ハミルトンのことで、雄弁な理論家として描かれている(前述したようにラップが生きる設定)。
 物語の大筋は、カリブ海の島で商人の子として生まれたハミルトンが野心を抱いてニューヨークに渡り、ジョージ・ワシントンの側近として頭角を現して一時代を築くものの、複雑な政争に巻き込まれた末に決闘で亡くなってしまう、というものだが、周囲に登場する、ワシントン、アダムズ、ジェファーソンという第3代までの大統領や、決闘の相手となるアーロン・バー、独立戦争を共に戦ったジョン・ローレンス、それに妻となるイライザや、その姉アンジェリカといった人々を丁寧に描き、群像劇の趣が強い。その辺りの感触は『イン・ザ・ハイツ』と共通している。イギリス王ジョージ3世も薄気味悪く登場して満場の拍手を受けるが、実はジョージ3世の歌う楽曲だけがフォーキーでポップな、ジェイソン・ムラーズ Jason Mraz を思わせるナンバーで、それがいいアクセントになっているのも面白い。
 この舞台の大胆な要素として、配役のことも挙げておこう。
 前述の登場人物からわかるように、史実を再現しようとすれば当然ヨーロッパ系の白人役者が並ぶはず。ところが、そうしたことを全く無視した配役がなされているのに驚く。ブロードウェイの舞台には(おそらく俳優組合との協定によると思われるが)一定数のエスニック系俳優を起用しなければならないという規定があるが、そういうレヴェルの話ではない。そもそもハミルトンをリン-マニュエル・ミランダが演じているわけで(魅力的な役者でもある)、主要な役を含め、むしろヨーロッパ系白人よりもカリブ海経由のアフリカ系と思われる役者の方が多いぐらいだ。
 逆に言えば、このことが、この舞台の狙いが史実の再現などにはないことを示してはいないか。時代性を無視した音楽(ラップ/ヒップ・ホップ)と史実にこだわらない配役によって、過去のアメリカの物語を現代の物語として読み替えようとしている、それがこの作品の狙いなのではないか。そんな風に思われるところも『ハミルトン』の刺激的なところだ。
 演出トーマス・カイル Thomas Kail、振付アンディ・ブランケンビューラー Andy Blankenbuehler。

 

 以上、第1次アップでした。

(10/24/2015)


 『ハミルトン』のプレイビルでの楽曲名表記は、その後、各曲にタイトルが付いた形に変わりました。

(6/14/2016)

Copyright ©2015 MIZUGUCHI‘Misoppa’Masahiro

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