LINDA GROSS THEATER 4/5/2015

[ゆけむり通信Vol.118]

4/1-4/5/2015


  • 4月 1日20:00
    『ファン・ホーム FUN HOME』
    CIRCLE IN THE SQUARE 235 West 50th Street
  • 4月 2日20:00
    『老貴婦人の訪問 THE VISIT』
    LYCEUM THEATRE 149 West 45th Street
  • 4月 3日20:00
    『愛に生きる LIVING ON LOVE』
    LONGACRE THEATRE 220 West 48th Street
  • 4月 4日14:00
    『何か怪しい! SOMETHING ROTTEN!』
    ST. JAMES THEATRE 246 West 44th Street
  • 4月 4日20:00
    『ドクトル・ジバゴ DOCTOR ZHIVAGO』
    BROADWAY THEATRE 1681 Broadway
  • 4月 5日10:30
    『キャンプ・カッパワナ CAMP KAPPAWANNA 』
    LINDA GROSS THEATER 336 West 20th Street
  • 4月 5日14:00
    『恋の手ほどき GIGI』
    NEIL SIMON THEATRE 250 West 52nd Street
  • 4月 5日19:00
    『アイオワ IOWA』
    PETER JAY SHARP THEATER(PLAYWRIGHTS HORIZONS) 416 West 42nd Street
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 3月に続いてのブロードウェイ・ミュージカル春の新登場作シリーズ第2弾。前月同様、計5本だが、その内、リヴァイヴァルが1本(『恋の手ほどき』)、古い戯曲と古い映画の舞台ミュージカル化が1本ずつ(『老貴婦人の訪問』『ドクトル・ジバゴ』)と、再生ものが3本。残る2本の内、1本はオフからの移行(『ファン・ホーム』)で、純粋な新作は『何か怪しい!』のみ。ネタ不足感は拭えないが、出来はいかに。
 では、ブロードウェイ新登場作の感想を観た順に。

 『ファン・ホーム』は2013年秋にオフで上演された小規模な舞台。それが、そのままブロードウェイへ。劇場はブロードウェイでは最小のサークル・イン・ザ・スクエアで、セットや演出(サム・ゴールド Sam Gold)もオフの時と同じ。原作はアリソン・ベクダル Alison Bechdel の自伝的同名コミック(“グラフィック・ノヴェル”と表現されている)で、珍しく日本語版も出ている。
 カミングアウトしないゲイであった父親を中心にした自分の家族と友人の物語を、今では自らゲイであることを告白している著者アリソンが娘の視点で描いていく、という内容で、ユーモアと緊張感が同居して不思議に魅力的。ナレーターでもある大人のアリソンの他に、小学生ぐらいのアリソンと高校生ぐらいの年のアリソンも(時には同時に)登場して、話は重層的に描かれる。
 楽曲は、ドラマに自然に溶け込みつつヴァラエティにも富む。子供たちがジャクソン・ファイヴ風に歌う「Come To The Fun Home」等の楽しい楽曲もある。作曲のジニーン・テソーリ Jeanine Tesori は2002年の『モダン・ミリー THOROUGHLY MODERN MILLIE』以降コンスタントにブロードウェイに登場している注目の作曲家の1人(『キャロライン、オア・チェンジ CAROLINE, OR CHANGE』『ヴァイオレット VIOLET』とオフからの移行作が多いのも特徴)。作詞のリサ・クロン Lisa Kron は今作の脚本家でもある。彼女の場合、過去の脚本も自伝的なものが多いらしく、そういう意図での起用だろうが(あるいは彼女の発案か)、成功している。
 役者は計9人という少人数にもかかわらず、5人がトニー賞の候補になった。3世代のアリソン役(若い方から)の、シドニー・ルーカス Sydney Lucas、エミリー・スケッグズ Emily Skeggs、ベス・マローン Beth Malone、父親役マイケル・サーヴェリス Michael Cerveris、母親役ジュディ・キューン Judy Kuhn。確かに、いずれも好演。小さなカンパニーだけに、誰が欠けても成り立たない一体感があった。

 『老貴婦人の訪問』は、ジョン・カンダー John Kander(作曲)と故フレッド・エブ Fred Ebb (作詞)の名コンビが書いた(おそらく)最後から2番目のミュージカル(最後が2007年の『カーテンズ CURTAINS』)。一旦は2001年のブロードウェイ入りが発表されたが、9・11他、紆余曲折があって今年の登場となった。
 スイスのフリードリヒ・デュレンマット Friedrich Duerrenmatt が1956年に書いた同名戯曲のミュージカル化で、脚本は名匠テレンス・マクナリー Terrence McNally。若き日に石もて追われた寒村に、実質的支配者(村の経済を牛耳っている)として帰ってきた老貴婦人が、経済的援助と引き換えに、かつて彼女を裏切った男の命を差し出すように村人たちに要求する、という寓話めいた内容。若き日の老貴婦人とその恋人も残像のように登場して、物語は時の狭間を行き来する。すでに様々に解釈されているようだが、人種差別や性差別の問題を内包しているのは確かだろう。と同時に、恋愛の不思議さも描いているように感じられる。それがマクナリーの独創なのか原作にもある要素なのかは、原作を未読(プレイを未見)のため不明だが。
 カンダー&エブの楽曲は、陰影に富み流麗にして芳醇な……というと何か語っているようで何も語っていないが(笑)、実際そんな印象。このコンビの新作はもう2度と聴くことができない、という感傷で耳が曇ったのかもしれない。が、パリ・ミュゼットを思わせるアコーディオン主体のサウンドと、ジプシー的なものも感じさせる情熱と哀愁に満ちたメロディが、殺伐ともなりうる作品世界を、濃密な愛の舞台として成立させているのは間違いない。
 舞台に影を落とす大きな橋状の通路、棺桶、時代物のトランク(装置スコット・パスク Scott Pask)。ほの暗い照明(照明ジャフィ・ワイドマン Japhy Weideman)。村の住人たちの薄汚れた衣装、老貴婦人とその従者たちの華麗な衣装(衣装 Ann Hould-Ward)。全てが、不気味でありながら美しい世界の空気を見事に醸成している。
 主演は驚くべきチタ・リヴェラ Chita Rivera。御年82。1993年のカンダー&エブ作品『蜘蛛女のキス KISS OF THE SPIDER WOMAN』の時でさえ、すでに“伝説”の領域に足を踏み入れていたが、あれから20年以上。さすがに今回は踊らないが、それでも見事な歌を聴かせるし、なにより舞台の中心たるべき存在感が素晴らしい。もちろん他の役者もうまいが、彼女の前に印象が霞む。
 なお、これとは別に、この戯曲を元にした同タイトルのウィーン産ミュージカル版もあり、『貴婦人の訪問』というタイトルでこの夏の翻訳上演が予定されているのはそちら。

 『何か怪しい』。タイトルは『ハムレット HAMLET』のセリフから。
 というわけで、シェイクスピア William Shakespeare が時代の寵児として作品に登場。主人公はライヴァル劇団を率いるプロデューサー兼演出家。弟が(自覚がないが実は天才)戯曲作者。2人してシェイクスピアを出し抜こうとして見出すのが“ミュージカル”というスタイルで……。と、かなりパロディ色の強い世界で、感触は『スパマロット! MONTY PYTHON'S SPAMALOT』に近いオフビートなコメディ(演出家が同じくケイシー・ニコロウ Casey Nicholaw というこもあるだろう)。シェイクスピアの時代を舞台にした裏返しの“ミュージカル讃歌”ともとれるが、大量に取り込んだ過去のミュージカル楽曲(や振付)の扱いにあまり捻りがない感じで、その辺りをどう評価するか。ともあれ、笑える作品ではある。
 2人の楽曲作者の内、ウェイン・カークパトリック Wayne Kirkpatrick はエリック・クラプトン「Change The World」の作者の1人として知られるナッシュヴィル拠点のソングライター兼ミュージシャン。カレイ・カークパトリック Karey Kirkpatrick はその弟で、ディズニーを皮切りに主にアニメーション映画の脚本・監督として活躍している(今作でも、ジョン・オファレルと共同で John O'Farrell脚本を手がけている)。似た作品として『スパマロット!』を挙げたが、楽曲も似た感触で、オーソドックスなショウ・ナンバーの合間にビートの効いたナンバーが混じったりする(シェイクスピアの登場シーン)。楽しいが、やや上滑りにも思える。そんな中、「Lovely Love」は素直な、いいラヴ・ソング。
 主演のプロデューサー兼演出家役はブライアン・ダーシー・ジェイムズ Brian d'Arcy James だが、『ピーターと星の守護団 PETER AND THE STARCATCHER』(2012年)で傍若無人な活躍を見せたクリスチャン・ボール Christian Borle(シェイクスピア役)はじめ、ブラッド・オスカー Brad Oscar、ブルックス・アシュマンスカス Brooks Ashmanskas、ハイディ・ブリッケンスタッフ Heidi Blickenstaff 等、曲者役者多数。

 『ドクトル・ジバゴ』の演出家デス・マカナフ Des McAnuff は大がかりな装置が大好き。1993年の『トミー THE WHO'S TOMMY』ではハードなサウンドと相まって、それが功を奏したが、続く1995年の『努力しないで出世する方法(ハウ・トゥ・サクシード) HOW TO SUCCEED IN BUSINESS WITHOUT REALLY TRYING』の時には、すでに内容と齟齬があるように感じたものだ。今回は、巨大な鉄製(に見える)の可動式のシーソーのような装置が出てきて、列車その他に化ける。が、どうにも効果のほどが感じられない。おまけに、観た回は途中で故障して舞台が止まってしまった(ま、プレヴューでしたから)。てなことは、ま、些末か。
 前述したように同名映画(1965年)の舞台ミュージカル化(その元はボリス・パステルナーク Boris Pasternak の同名小説)。ロシア革命を背景に、民衆に心を寄せる貴族階級の医師ジバゴとその妻、革命に身を投じる女性ララと彼女を愛する革命家、という4人の愛憎が描かれる。その構造からして、どこか『レ・ミゼラブル LES MISERABLES』を思わせるが、あちらほど筋に起伏がなく(例えば子供の頃悪玉だったエポニーヌが成長して善玉に変わるというような)、後半単調になる。
 楽曲も、やはり『レ・ミゼラブル』的な歌い上げ系だが、結果的には、第1幕中盤で戦場の看護士たちによって穏やかに歌われる映画版の「ララのテーマ」のヴォーカル・ヴァージョン「Somewhere My Love」(作曲モーリス・ジャール Maurice Jarre)が一番心に残るのは、皮肉と言えば皮肉。作曲のルーシー・サイモン Lucy Simon はカーリー・サイモン Carly Simon の姉で、サイモン・シスターズとして活動後、自身のアルバムも発表しているシンガー・ソングライター。劇場では1991年の『秘密の花園 THE SECRET GARDEN』の作曲をしている。作詞の2人の内、マイケル・コリー Michael Korie は、オフで話題を呼び2006年にブロードウェイに移った『グレイ・ガーデンズ GREY GARDENS』の作詞家。一方のエイミー・パワーズ Amy Powers も劇場周辺で活躍する人で、ブロードウェイでは『サンセット大通り SUNSET BOULEVARD』に“作詞に貢献した”人としてクレジットされている。
 ちなにに、土曜の夜だったにもかかわらず観た回はジバゴ役が代役だった。

 『恋の手ほどき』の初演は1973年。元は前月観た『巴里のアメリカ人』と同じくアーサー・フリード Arthur Freed 製作のMGMミュージカル映画(1958年)。映画版のヒロインはどちらもレズリー・キャロン Leslie Caron。
 20世紀初頭のパリ。ジジという奔放なところのある娘の社交界デビューまでの、周囲も含めた恋の話。フレデリック・ロウ Frederick Loewe(作曲)+アラン・ジェイ・ラーナー Alan Jay Lerner(作詞・脚本)による、もう1つの『マイ・フェア・レディ MY FAIR LADY』という理解でいいのではないかと思うが、あちらほどのジェンダーに対する批評性もなく、この価値観、今の感覚ではかなり疑問。
 役者では、ディー・ホッティ Dee Hoty、ヴィクトリア・クラーク Victoria Clark の揃い踏みが贅沢。ジジ役のヴァネッサ・ハジェンズ Vanessa Hudgens はディズニー・チャンネルの『ハイ・スクール・ミュージカル HIGH SCHOOL MUSICAL』出身。
 第2幕終盤のシャンパンのダンス・シーンは見応えがある(トニー賞授賞式でやってましたね)。演出エリック・シェイファー Eric Schaeffer、振付ジョシュア・バーガッシー Joshua Bergasse。

 以上、第1次アップでした。

(6/10/2015)

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