PORGY AND BESS ad at Times Square Station 2/18/2012

[ゆけむり通信Vol.100]

2/17-2/19/2012


  • 2月17日20:00
    『トキオ・コンフィデンシャル TOKIO CONFIDENTIAL』
    ATLANTIC THEATRE 330 West 16th Street
  • 2月18日11:00
    『ベレンスタイン・ベアーズ・ライヴ! 家族騒動 THE BERENSTAIN BEARS LIVE! IN FAMILY MATTERS』
    MARJORIE S. DEANE LITTLE THEATER 10 West 64th Street
  • 2月18日14:00
    『メリリー・ウィ・ロール・アロング MERRILY WE ROLL ALONG』
    CITY CENTER 55th Street between 6th & 7th Avenue
  • 2月18日20:00
    『ポーギーとベス PORGY AND BESS』
    RICHARD RODGERS THEATRE th Street
  • 2月19日14:00
    『神話と賛美歌 MYTHS AND HYMNS』
    WEST END THEATRE in the Church of St. Paul and St. Andrew 263 West 86th St. 2nd floor
  • 2月19日20:00
    『キャリー CARRIE』
    LUCILLE LORTEL THEATRE 121 Christopher Street
* * * * * * * * * *

 寒さが気になったが、ほとんど東京と同じだった 2月半ばのニューヨーク。
 3月末に飛ぶ予定は早くに決めていたが、その前に短期滞在で飛ぶことにしたのは、どうしても観ておきたいと思わせるリヴァイヴァルの期間限定公演が、この時期にまとまって登場することがわかったから。それが、『メリリー・ウィ・ロール・アロング』『キャリー』『神話と賛美歌』の 3作。いずれも、なかなか観る機会のなかった、“気になっていた”作品だ。

 というわけで、まずはその 3作から。

 シティ・センター恒例、なかなかリヴァイヴァルされないミュージカルをコンサート形式でリヴァイヴァルする“アンコールズ!”シリーズの 1作として登場したのが、『メリリー・ウィ・ロール・アロング』。スティーヴン・ソンドハイム Stephen Sondheim の興行的失敗作(1981年のブロードウェイ初演は、プレヴュー 52回、本公演 16回で終了)として有名で、その後、ロンドンやアメリカ各地で何度かリヴァイヴァルが試みられているが、いずれも期間限定公演だったようだ。
 もう 1つ、この作品は、次第に時を遡っていくという特異な設定を持つことでも有名(元はジョージ・S・カウフマン George S. Kaufman とモス・ハート Moss Hart の書いた 1934年の同名戯曲)。いったいどんな話だ? はたして理解出来るのか? と心配したが、百聞は一見に如かず。とてもわかりやすい舞台だった。もっとも、過去のリヴァイヴァルで加えられた改善を踏まえてのリニューアル上演だったようだが(楽曲も含め、かなり手が加えられている様子)。
 簡単に言うと、ミュージカルの楽曲作者コンビだったフランクリンとチャーリー、そして劇評家であるメアリーの友情物語。開幕直後は 1980年代初頭、フランクリンは成功した作曲者であり、大物映画プロデューサーでもある。が、彼の周囲の人間関係は妙にギクシャクしている。その理由は、彼が友情や愛情を犠牲にしてでも現世的な成功を求めてきたことにあることが、過去に遡るにつれ、わかってくる。時間が少しずつ巻き戻り、事情が少しずつ見えてくる。ミステリーの謎解きのような、その展開が面白い。と同時に、若返っていく登場人物たちの傷ついた関係も少しずつ蘇っていき、古き佳き時代になっていく(時代が遡る際、実在の有名人と出演者との合成写真を映し出して、世相をユーモラスに表現。年配の客にバカウケしていた)。終盤、若き 3人が出会った 1957年に到る頃には、観客は、ほろ苦くも清々しい気持ちになってくる。それは感傷かもしれない。が、過去の持っていた可能性に思いを馳せることで、かすかな希望も湧いてくる。現世的な成功だけに価値があるとされるバブルを迎えようとする時代に、作者たちは、そうした意図を抱いてこの舞台を作ったのではないか。そんな気がする。
 楽曲はイキイキしていて魅力的。中でも、『イン・ザ・ハイツ IN THE HEIGHTS』の楽曲作者にして主演者だったリン・マニュエル・ミランダ Lin-Manuel Miranda 演じるチャーリーが自分を裏切ったフランクリンを揶揄して歌う「Franklin Shepard, Inc」は、その『イン・ザ・ハイツ』のラップを思わせる躍動感に満ちている。ミランダを起用した由縁だろう。
 出演者で言えば、メアリーを演じたセリア・キーナン・ボルジャー Celia Keenan-Bolger も、出世作『第25回パットナム郡スペリング競技会 THE 25TH ANNUAL PUTNAM COUNTY SPELLING BEE』同様“屈折した純真さ”を見事に表現。狂言回し的立場で、ミュージカル的には見せ所が少ない難しい役だと思うが、芝居の要になっていた。フランクリン役は最新リヴァイヴァルの『エニシング・ゴーズ ANYTHING GOES』で優男ビリーを演じたコリン・ドネール Colin Donnell だが、ここでは甘さを生かしつつ、複雑な“悪役”をうまく演じていた。

 スティーヴン・キング Stephen King の小説からブライアン・デ・パルマ Brian De Palma 監督による映画化を経て舞台ミュージカル化された『キャリー』も、興行的失敗作として広く知られている(1988年の初演は、プレヴュー 16回、本公演 5回で終了)。なにしろ、 1991年に出された“ブロードウェイ・ミュージカル失敗作の 40年”というサブタイトルの付いた本のタイトルが「NOT SINCE CARRIE」だったぐらいだから。
 しかし、このオフでのリヴァイヴァルは、よくまとまっていて、悪くなかった。ブロードウェイ版は、オンラインで流れているヴィデオでその一部を観る限り、なんとも大仰なセットを駆使していて、そのあたりが“噴飯もの”だったのでは、と思わせる。おそらく、その点、今回は劇場の小ささが、閉塞感の漂う内容と相まって、雰囲気醸成に一役買っていたのだろう。学園青春ドラマ部分と家庭ホラー部分との融合も違和感がなかった(ストーリー、ご存知ですよね?)。
 と、まあ、いろいろあるが、とにかく素晴らしいのが、キャリー役のモリー・ランソン Molly Ranson。『バーント・パート・ボーイズ THE BURNT PART BOYS』の山にいる不思議な少女役で存在感を示した人だが、今回は、決して美しくはないキャリーが次第に輝いていく様を、そして最後に怒り狂う様を独特の魅力で演じて、舞台を引っ張っていく。ランソンと共に名前が大きく出ているマリン・メイズィー Marin Mazzie は、この日休演で、狂信的な母親役は控えのアン・トルペジン Anne Tolpegin だったが、怖過ぎるぐらいうまかった。
 楽曲も悪くないが、やや決め手に欠けるか。その辺が弱点なのだろう。残念ながら、今回の期間限定公演も予定より 2週間早く幕を下ろすことになったようだ(※4/2追記 正確には、当初の終了予定を 4週間延ばしたものの、延長 2週目で閉めることにした、ということらしい。つまり、それなりに好評ではあったわけだ。失礼)。

 『神話と賛美歌』は、『ライト・イン・ザ・ピアッツァ THE LIGHT IN THE PIAZZA』で知られる楽曲作者アダム・ゲテール Adam Guettel の旧作で、そもそも演劇としてではなく、楽曲集として 1998年にコンサート形式で発表されたらしい(当初のタイトルは『サターン・リターンズ SATURN RETURNS』)。それを今回は、演出家エリザベス・ルーカス Elizabeth Lucas が楽曲に触発されて自ら書いたストーリーに則って、物語仕立てで上演した、ということのようだ。
 老年を迎えた女性が、娘が売り出すことにした家の屋根裏部屋に籠もって、思い出の品々と出会い、人生を振り返る、という話は、(タイトルから想像がつくように)天使が登場したりして多分に幻想的だが、教会内にある高いドーム型天井の小ぢんまりした劇場という願ってもない天然の舞台装置が、そうした作品内容にぴったりで、繊細で巧みな照明と相まって、清廉な気分を舞台に与えていた。
 楽曲は、クラシカルなものからゴスペル的なものまでを含む豊かなもので、それを、役者達が見事に歌いこなす。ことに、コーラスの響きが魅力的。ちなみに、主演の老女役はリンダ・ボルゴード Linda Balgord(『パイレート・クイーン THE PIRATE QUEEN』のエリザベス女王役)で、なかなか歌わないので今回は演技専門かと思っていたら、終盤に渋い声を聴かせた。

 9月末日までの期間限定公演だが、ブロードウェイの新登場作が 1本。

 “フォーク・オペラ”『ポーギーとベス』の初演は 1935年。ご承知の通り、ジョージ・ガーシュウィン George Gershwin の作曲作品で、脚本と作詞はデュボース&ドロシー・ヘイワード DuBose & Dorothy Heyward、アイラ・ガーシュウィン Ira Gershwin が作詞で共作している(今回の上演タイトルの頭に“The Gershwins'”と付いていて、ガーシュウィン兄弟のことだと思うが、ヘイワード夫妻はどうなる? ちなみに、初演以来ずっと、ドロシー・ヘイワードの名前は元になった戯曲『ポーギー PORGY』の共作者としてのみ記載されていたが、今回は作詞の共作者としてもクレジットされている)。なお、今回は脚本もだいぶ刈り込まれ、その分スコアにも改変があるようだ(脚本加筆スーザン・ロリ・パークス Suzen-Lori Parks、スコア加筆ディードゥリ・L・マレイ Diedre L. Murray)。
 一番最近のブロードウェイ・リヴァイヴァルが 1977年で(細かいことを言うと 1983年にラジオ・シティで短期上演されているが、これはブロードウェイとは言えないだろう)、その時の製作主体だったヒューストン・グランド・オペラ The Houston Grand Opera の来日公演を 1996年だかにオーチャード・ホールで観たが、どうにも重苦しく、立派だがやりきれない、という印象を持った。それに比べ、今回のリヴァイヴァルは、“フォーク・オペラ”の“オペラ”よりも“フォーク”の方が強調された感じで、猥雑さがあり、力強さがある、と感じた。演出のダイアン・ポーラス Diane Paulus は 2009年の『ヘアー HAIR』を手がけた人で、 1999年にオフで観た“クラブ版真夏の夜の夢”『ドンキー・ショウ THE DONKEY SHOW』の作者でもあったわけで、この 2作に共通するのは、軽薄とも思える派手さの背景に、ある種の生命力を感じるというところだから、その感じ方はあながち的外れでもないだろう。シンプルで無骨な印象ながら様々な表情を見せるリカルド・ヘルナンデス Riccardo Hernandez の装置も、そうした雰囲気に寄与している。個人的妄想としては、作品の向こうに、ハリケーン・カトリーナ後のニューオーリンズに対する思いを観た気がした。
 主要キャストは、オードラ・マクドナルド Audra McDonald(ベス)、ノーム・ルウィス Norm Lewis(ポーギー)、デイヴィッド・アラン・グリーアー David Alan Grier(スポーティング・ライフ)。もちろん他のキャストも含めて、素晴らしい。

 以下 2本はオフ(あるいはオフオフか)。

 『トキオ・コンフィデンシャル』は、タイトルに惹かれて観に行ったが、不思議な空気感が面白かった。
 時は 1879年(明治 12年)。船員だった亡夫が愛した日本の美を体験するために来日したアメリカ人女性が、刺青に魅せられ、自らの身体に彫る、という話で、亡き夫の面影を心の支えとしながらも、大胆に新たな人生に踏み入っていくヒロイン像が描かれる。
 舞台には畳が敷き詰められ(設定上致し方ないのだが、日本人としては、その上を時折、靴のまま歩くのが気になった)、舞台手前に「コ」の字型に設えられた白木の溝に玉砂利が入れられている。舞台奥には襖を思わせる移動式スクリーン。――と、装置は宮本亜門演出『太平洋序曲 PACIFIC OVERTURES』(松井るみ)のミニチュアお座敷版、といった風情。加えて、陰影を強調した照明とプロジェクションで、巧みに日本画をイメージさせる舞台に仕上げてある。そうした手法には、西欧が日本を描く際にありがちな違和感がなく(土足で畳を別にして)、日本の古い文化に対する研究と敬意が感じられた。ところで、彫師の名が“彫よし”というのだが、あの横浜の彫よしの実話に基づいていたりするのだろうか。
 楽曲にも、どこかしら『太平洋序曲』を思わせるものがあったが、これは、作曲作詞のエリック・ショー Eric Schorr がソンドハイムに憧憬を抱いているせいか。はたまた、日本を描こうとすると似てくるということなのか。いずれにしても、悪くなかった。

 『ベレンスタイン・ベアーズ・ライヴ! 家族騒動』は絵本→アニメーションで人気の熊の世界のミュージカル舞台化。完全に子供向けなのはわかって観に行ったのだが、隣のオバサン(つっても年下か?)から「ご家族はどちらに?」と訊かれた。怪しいヤツと見られたか(笑)。
 子供向けミュージカルは、作劇の勘所がわかって面白い。この舞台について言えば、本来のキャラクターの特性に頼りすぎず、きちんと話が組み立てられ、楽屋落ちがないのも潔い。ショウ場面も含め、ちゃんとしてるなあ。

 そんなこんなで、久々の短い滞在だったが、観劇内容は充実していて大満足。
 さて、次回の渡米は……もう来てます(笑)。

(4/1/2012)

Copyright ©2012 MIZUGUCHI‘Misoppa’Masahiro

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