Mounted police at Duffy Square. 3/30/2011

[ゆけむり通信Vol.95]

3/29-4/4/2011


※◆マークは観劇記がアップされていません。

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 外国人を含む“海外脱出組”でごった返す、との風評もあった成田だが、“むしろ逆!”(by YO-KING「ゆらぎのないほどほど」)。いつも空いてる京成スカイライナーはもとより、空港自体もガラガラ。すんなり出国し、すんなりアメリカ入りした。
 今回は、近年では稀に見るブロードウェイ・ミュージカルの新作ラッシュの時期にあたり、出発前から全ての日程のチケットを予約するという状況。ギチギチの予定となった。で、結果としては、当たりが多く、充実した 1週間となった。
 ちなみに、気候は、寒過ぎもせず、雨もたいして降らず、割りに快適でした。

 さて、オンの新登場作の内、米国オリジナルの新作ミュージカルを観た順に。

 『ベイビー・イッツ・ユー!』は、かなりチープな『ジャージー・ボーイズ JERSEY BOYS』、の印象。
 日本ではもっぱらビートルズがファースト・アルバムで 2曲カヴァーしたことで知られる(その内の 1曲がタイトルになった「Baby It's You」)シレルズ The Shirells というガール・グループを生んだセプター・レコーズ Scepter Records の物語で、主婦でいることに飽き足らず音楽業界に身を投じて成功した同社社長のフローレンス・グリーンバーグ Florence Greenberg が主人公。夫や娘との気持ちの行き違い、ヒットを出す苦労、人種問題等のドラマがあるにはあるが、どれも通り一遍で捻りが足りず、アイディア満載の『ジャージー・ボーイズ』の足元にも及ばない。と思ったら、書いたのは『ミリオン・ダラー・カルテット MILLION DOLLAR QUARTET』のチームだった。
 そもそも役者の数が少なく、主演のベス・リーヴェル Beth Leavel が舞台を背負って孤軍奮闘。周りも複数役をこなして踏ん張るが、ショウ場面も安っぽく見えて残念な出来。早々にロンドンに旅立つんだろうな。

 モルモン教のミュージカルって? と恐る恐る観に行ったら、予想と違って爆笑もので、かつ考えさせられるところが多かったのが、『モルモン書』。それもそのはず、こちらは、 TVアニメ『サウス・パーク SOUTH PARK』の作者、トレイ・パーカー Trey Parker とマット・ストーン Matt Stone のコンビが、『アヴェニューQ AVENUE Q』の作者の 1人、ロバート・ロペス Robert Lopez と組んで作った作品だった!
 ソルト・レイク・シティの本部で教育を受けたモルモン教の布教員たちが 2人 1組で世界各地に送り出される。で、ウガンダ行きを命じられるのが、エリート意識の強い好青年とお調子者のオタクのコンビ。この 2人、ウガンダの過酷な現実としたたかな人々を前に、追いつめられて、神をも恐れぬ椿事を巻き起こす。
 人間て、みんな笑えるくらいヘンだけど、わかりあえないわけでもないよね、という、ある種の楽観主義が、辛辣極まりないギャグを OKにしてしまう。そのバランス感覚が素晴らしい。生気溢れる音楽も楽しい。ネタがネタだけに、トニー賞に関しては予測不能だが。

 トニー賞作品賞最右翼と思わせる出来なのが、同名映画の舞台ミュージカル化、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』
 ご承知かと思うが、実在した若い詐欺師と彼を追う FBI捜査官の物語で、映画の枠組みをまんま借りて全体を TVショウに見立てたのが、舞台ミュージカルの趣向としてハマっている。その設定を受けた 60年代半ば的モダンなデザインの装置の中で、実に快調に“コン・ゲーム”が展開されるが、背景の人間ドラマもしっかり描かれるあたり、脚本テレンス・マクナリー Terrence McNally のさすがの手腕というべきか。楽曲作者マーク・シャイマン Marc Shaiman、スコット・ウィットマン Scott Wittman、演出ジャック・オブライエン Jack O'Brien、振付ジェリー・ミッチェル Jerry Mitchell、装置デイヴィッド・ロックウェル David Rockwell、衣装ウィリアム・アイヴィ・ロング William Ivey Long 他、『ヘアスプレイ HAIRSPRAY』のスタッフが再結集。主演にノーバート・レオ・バッツ Norbert Leo Butz、アーロン・トゥヴィート Aaron Tveit の 2人を迎え、活気に満ちた、そして心に染みる舞台を作り上げた。
 まずは必見。

 『写真の中の人々』は、ミュージカルに関してはリヴァイヴァル専門の感が強いラウンダバウト劇場 Roundabout Theatre Company の新作。地味な題材だが、ある種のミステリー仕立てで、最後まで目が離せない作りになっている。
 戦前(第二次世界大戦です)のワルシャワで活動していたユダヤ人劇団の看板女優だった女性が主人公。今(1977年)は娘と一緒にニューヨークに住む年老いた彼女は、昔話を孫娘に聞かせる。それをウソだと嫌がる娘。なぜか。そこに謎がある。ナチスの台頭、ユダヤ人迫害の歴史の渦中で、母と娘との間に何があったのか。昔話を始めると、今は亡き劇団の友人たちが立ち現れて、老女だったはずの女優が一瞬にして若返り、自身の半生を再現する、という舞台ならではの表現を巧みに使って、ユダヤ人たちのドラマを重層的に描いていく。
 脚本と作詞のアイリス・レイナー・ダート Iris Rainer Dart は映画化された「フォーエバー・フレンズ BEACHES」の作者として知られる小説家で、 TVドラマ等の脚本も手がけてきたらしい。シリアスな話を巧みに温かくまとめている。主演のドナ・マーフィ Donna Murphy はじめ、役者も、うまい人たちが揃った。作曲は、なんと、マイク・ストーラー Mike Stoller。及び、弟子筋(?)のアーティー・バトラー Artie Butler。
 途中、映画の撮影シーンが何度かあるが、実際にカメラで舞台上の役者を撮り、それが古いモノクロームの映画らしい画質で背景に映し出されるのが新鮮だった。

 『ワンダーランド』は、ルイス・キャロル Lewis Carroll のアリス物語の現代版。ただし、原作と違ってナンセンスではない。
 娘を連れて夫と別れたアリス(大人)が娘のベッドでウトウトしていると、どこからともなく白いウサギが現れ……、という展開は、どう見ても不安を抱えた主人公の心象風景なのだろうなと思う。そこからして、すでに原作のわけのわからない面白さから大幅に後退しているが、出てくる連中もヘンさが足りず、ワンダーな感じがしない。でもって、気狂い帽子屋が悪の張本人であることがわかるに及んで、なんだか変身戦隊ものを観ているような気がしてくる。
 脚本はジャック・マーフィ Jack Murphy(作詞も)とグレゴリー・ボイド Gregory Boyd(演出も)。作曲のフランク・ワイルドホーン Frank Wildhorn と共に『南北戦争 THE CIVIL WAR』を作ったチーム。なので、まあ、こんなものか、と失礼ながら納得。もちろん(重ねて失礼)、特筆すべき楽曲もない。

 次の 2本は 09年夏にロンドンで観たもの。ほぼ、そのままの姿でブロードウェイ入りした。どちらも同名映画の舞台ミュージカル化(映画版『プリシラ』の原題は、前に“THE ADVENTURES OF”と付く)。

 『シスター・アクト』ロンドン版の感想は次の通り。
 [邦題『天使にラブ・ソングを』として知られるヒット映画のミュージカル舞台化だ。映画では既成楽曲が歌われていたが、ここでは、アラン・メンケン Alan Menken とグレン・スレイター Glenn Slater(舞台版『リトル・マーメイド THE LITTLE MERMAID』で組んだ 2人)によるオリジナル楽曲が使われている。主人公の歌手が殺人を目撃してから修道院に匿われるまでは緩い舞台だと感じたが、その後、空気が変わる。きっかけは、第 1幕中盤のエイコ・ミッチェル Ako Mitchell 演じる(主人公を修道院に連れて行く)警官役のソング&ダンスで、このファンキーなナンバーがなければ凡作で終わっていたかもしれない。以降、大して話のないところをショウ場面をうまく並べて盛り上げている。主演のパティーナ・ミラー Patina Miller は熱演。愛嬌もあり、舞台栄えがする。]
 今回、警官役は、来日公演もあったアポロ劇場版『ドリームガールズ DREAMGIRLS』でジミー・アーリーを演じて印象的だったチェスター・グレゴリー Chester Gregory。ただし、歌って踊れる人だと知っていたので、“空気が変わる”ほどの驚きはなかった。主演はロンドン版のパティーナ・ミラーがやって来た。相変わらず快調だ。
 ブロードウェイ版の演出はジェリー・ザックス Jerry Zaks。導入部が緩く感じられなかったのは彼の手際か(ロンドン版演出はピーター・シュナイダー Peter Schneider)。ロンドン版を観て [ブロードウェイを目指していると思うが、それはちょっと厳しいかも] と書いたが、今のブロードウェイなら当たるのかも。

 『プリシラ』ロンドン版の感想は次の通り。
 [シドニーのナイトクラブで働くドラッグ・クイーン(女装の男性) 3人がバスに乗り、砂漠を越えて保養地アリス・スプリングスに行くという話は、ロード・ムーヴィ的なだけに風景の広がりがある映画には及ばないが、人情コメディとして手堅くまとめてある。ド派手な衣装のドラッグ・クイーンたちによるショウ場面(口パク。歌は空から降りてくる 3人のディーヴァたちが担当)をディスコ調にアレンジされた有名ヒット曲に乗せてグイグイ見せる部分と、意外なヒット曲を心情吐露に使うドラマ部分との組み合わせが、乱暴なようで案外うまく舞台を転がしていく。]
 ドラッグ・クイーン 3人の内、ロンドン版で [存在感が大きい] と感じたトニー・シェルドン Tony Sheldon(オリジナルのシドニー版でも演じたという)がブロードウェイまで来ているのは大きい。
 しかし、こういう、ちょっと荒っぽくて猥雑な舞台は、ロンドンでの方が映えるな。

 さて、オンのミュージカル、残り 2本はリヴァイヴァル。

 『努力しないで出世する方法』は 95年のマシュー・ブロデリック Matthew Broderick 版を観ている。今回の主演は、映画『ハリー・ポッター HARRY POTTER』シリーズで知られるダニエル・ラドクリフ Daniel Radcliffe。水曜マティネーだったせいもあると思うが、劇場は彼目当ての若い女子客でいっぱいだった。
 [ミュージカル初出演だが、歌も踊りも破綻はない(どちらも特にうまいわけではないが)。] というのはブロデリック版初見の感想だが、ラドクリフについても全く同じ。ではあるが、ラドクリフには、ブロデリックの持つ“イノセントでちゃっかりした”感じの“不思議な魅力”がない。その分、物足りない。
 が、それを補って余りあるのが、ダンサー陣の縦横無尽の活躍。なにしろ、この作品、初演でボブ・フォッシー Bob Fosse が、再演のブロデリック版ではウェイン・シレント Wayne Cilento が振付に関わっているぐらいで、ダンスの見どころ満載。今回はロブ・アシュフォード Rob Ashford が演出と共に振付も担当して、前作『プロミセス、プロミセス PROMISES, PROMISES』で見せた以上の群舞のオンパレードになっている。そういう意味で、実に楽しい。

 今回、自分の中で一番盛り上がったのが、キャスリーン・マーシャル Kathleen Marshall 演出・振付の『エニシング・ゴーズ』。とにかく、主演のサットン・フォスター Sutton Foster が歌って踊って笑わせてくれるのが楽しくてしかたがない。特にダンス。この人、ここまで踊れるんだ、と驚いた。考えたら、 88年に初めて観たリンカーン・センターの『エニシング・ゴーズ』では、あのパティ・ルポン Patti LuPone がガンガン踊ってたわけで、今となっては、そっちの方が驚きだが(笑)。
 元々が、コール・ポーター Cole Porter の名曲がズラリと並ぶ名作(再演のリンカーン・センター版から、他作品の楽曲が加えられ、脚本も手直しされた)。もっとも、ストーリーはいい加減だが、そのナンセンスさ加減も楽しい。で、今回は、フォスターの他に、ジョエル・グレイ Joel Grey、ジョン・マクマーティン John McMartin という個性的な名優がいるのもうれしい。ことに、フォスターとグレイの掛け合い「Friendship」の軽妙さといったら、ちょっと比類がない。この 2人を観るためだけにでもチケットを買う価値がある。

 ニュージャージーに遠征して観た『ローマで起こった奇妙な出来事』もリヴァイヴァル。ソンドハイム Stephen Sondheim が初めて作曲も手がけたブロードウェイ作品として知られる。
 この作品のキモは、主役と言うより狂言回しと言った方が相応しい奴隷のスードラス役者と、その相方とも言うべきヒステリアム役者のコメディアンとしての技量にある。その点、今回のポール・C・ヴォート Paul C. Vogt とジョン・シェラー John Scherer はハマっていた。まずは、きっちりした出来。

 1本だけストレート・プレイを観た。『バグダッド動物園のベンガル虎』。観た理由は、ロビン・ウィリアムズ Robin Williams が主演だったから。
 2003年のバグダッド。第二次湾岸戦争の最中。アメリカ兵とイラク人、それに動物園のトラ(ウィリアムズ)が織り成す、生と死の境界線上の奇妙なアラベスク、といったところか。登場人物(トラも含む)が次々に死んでいくのだが、人間の死生観を対象化するように、トラ(の亡霊)が腹を空かせて人を食いたがるのが、哀しくて可笑しい。

 次回の渡米は未定。夏には 3年振りにロンドンへ行く予定です。

(4/30/2011)

Copyright ©2011 MIZUGUCHI‘Misoppa’Masahiro

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