『サッチモ・シングス・ディズニー
DISNEY SONGS THE SATCHMO WAY』

ルイ・アームストロング Louis Armstrong(Buena Vista)

僕の“ハジレコ”

 “ハジレコ”というのは、レコード・コレクターズ誌の連載企画で、「ハジメテ買ッタレコード」の略。僕が初めて“自分の小遣い”(牛乳配達の報酬)でレコードを買ったのは、小学 6年生の時。
 ……と、ずっと思い込んでいたのだが、レコードの©年(68年)を見ると、どうやら中 1の時だったようだ。てことは、小 6で買ったのはシングルだったのか? ま、いいや。ともかく、初めて自分で買った“アルバム(LP)”は、当時日本コロムビアから出ていた“カラー・デラックス・シリーズ”の 1枚、『ルイ・アームストロング・デラックス』だった。

 なぜそのアルバムを買ったかと言うと、ダブジャケ(本のように開くジャケット)の内側にライナーノーツ(野口久光!)や歌詞が書かれた 8ページの小冊子が付いているのだが、その真ん中の見開きがシリーズ名の通りカラー印刷になっていて、そこに、歌っているサッチモ(アームストロングの愛称)の写真と一緒に、ディズニーの長編アニメーションの場面写真が載っていたからなのだ。
 『白雪姫 SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS』『シンデレラ姫 CINDERELLA』(初公開時は“姫”付き)『不思議の国のアリス ALICE IN WONDERLAND』『ジャングル・ブック THE JUNGLE BOOK』『メリー・ポピンズ MARY POPPINS』『ピノキオ PINOCCHIO』――いずれも抑え気味の美しい色調だった。
 ヴィデオ世代の人には想像がつかないかもしれないが、あの頃は、ディズニーの長編アニメーションの場面写真なんて、おいそれとは見ることが出来なかった。今も手元にあるそのアルバムを開くと、決して広くないレコード屋の棚の前でドキドキしながらその写真を見つめたことを、鮮やかに思い出す。
 そして、買おうかどうしようか迷いに迷ったことも。
 と言うのは、定価の 2,200円を払うのが当時の僕にとっては一大決心を必要とすることだったからでもあるが、もう 1つ、すでにビートルズ(まだ現役だった!)にのめり込み始めていた僕の中で、“ロック”という価値観が重要になりつつあった、という事実もあった。ルイ・アームストロングという、名前こそ聞いたことがあるものの本当のところはよく知らない“ジャズ”のアーティストが、よりによってディズニー映画の楽曲を歌っているなんていうアルバムを買う行為そのものが、なんかカッコ悪いんじゃないかと思う気持ちがあったのだ。
 だから、ずっと僕の愛聴盤だったにもかかわらず、友人にこのレコードの話をすることは長い間なかった。

 その“ハジレコ”の CD 化が、上の写真の『サッチモ・シングス・ディズニー』で、日本でのリリースが 86年。“DISNEY SONGS THE SATCHMO WAY”という原題は、よく見ると『ルイ・アームストロング・デラックス』のジャケットの内側にも書いてあったが、“カラー・デラックス・シリーズ”としてデザインが統一されていた“日本盤”とはガラリと違うこの CD ジャケットの方が、おそらくオリジナル LP の姿に近いんだろうな。
 でもって曲の並びも違うのだが(収録曲は同じ)、それは本題とは関係ないので置いとこう。

 とにかく、僕にとっての「ハジメテ観タミュージカル映画」は、ディズニーの長編アニメーション映画だった。
 最初はたぶん『ピノキオ』だったんじゃないか。両親と観に行ったら、クジラに襲われるシーンを怖がってイスの背に隠れて観なかったので、祖父がもう 1度連れていってくれたらしいのだが、「やっぱり同じシーンで隠れたんだぞ、お前は」――という話を何度も聞かされたから。幼稚園に入るか入らないかの頃だろう。
 順番はともかく、そんな風にして、ディズニーの長編アニメーションがリヴァイヴァル(だったわけだ。当時はそうとは気づかなかったが)されるたびに観ていた。
 その刷り込みが、ためらいを乗り越えて、結局は中 1の僕に 2,200円を払わせたのだと思うと、あの時あのレコードに出会った意味はけっこう大きいのかもしれない。ミュージカル好きを自覚する第 1歩だったのかも。

 最後に、アルバムの中身に触れると――、傑作です。
 全 10曲の内 8曲はディキシー風アレンジの軽快な演奏。「Heigh Ho」「Whistle While You Work」(『白雪姫』)、「Bibbidi-Bobbidi-Boo」(『シンデレラ姫』)、「Zip-A-Dee-Doo-Dah」(『南部の唄 SONG OF THE SOUTH』)などの有名曲から、当時アメリカで公開される予定かされて間もない頃だったと思われる(この辺の周到さは今も変わらぬディズニーならではのもの)『ジャングル・ブック』の「The Bare Necessities」や実写ミュージカル『ファミリー・バンド THE ONE AND ONLY, GENUINE, ORIGINAL FAMILY BAND』の「'Bout Time」「Ten Feet Off the Ground」(ちなみにこの映画、 TVの「ディズニー・ランド」で何度も予告編を観たが、ホンチャンは観ずじまい)まで、どれも楽しいが、今聴くと、当時は NHKの「みんなのうた」で知っていた「The Ballad of Davy Crockett」(実写西部劇『デヴィ・クロケット DAVY CROCKETT』)の語り調の歌が味わい深くて印象に残る。
 が、なんと言っても、このアルバムを傑作にしているのは残る 2曲。ロマンティックな「When You Wish Upon a Star」(『ピノキオ』)と、ドラマティックな「Chim Chim Cheree」(『メリー・ポピンズ』)だ。
 特に、 7分近くに及ぶ「Chim Chim Cheree」のジワジワと盛り上がる演奏は、僕の中では、クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル Creedence Clearwater Revival による「悲しいうわさ I Heard It Through the Grapevine」のカヴァーと並ぶ感動作(なーに言ってんだか、って感じでしょうか。笑)。
 しかし、『不思議の国のアリス』の写真は、なぜ載っていたのだろう?

 現在も同内容の CD は出ているようだが、タイトルもジャケットも違う、味気ないもののようだった気がする。とは言え、大切なのは内容ですから、まずはお試しあれ。

 さて、これを機会にアンケート企画第 3弾をやりたいので、みなさんよろしく。テーマはもちろん“ハジミュジ映画”編(笑)。
 詳細は、こちらを。

(10/5/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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