『プロデューサーズ THE PRODUCERS』
メル・ブルックス Mel Brooks

ミュージカル舞台裏の魑魅魍魎

 アル・ハーシュフェルド Al Hirschfeld という名前をご存知だろうか。
 名前をご存知なくても、彼の絵はどこかでご覧になったことがあるに違いない。

 手近にあるもので紹介すれば、右は作曲家リチャード・ロジャース Richard Rodgers の自伝の普及版だが、この表紙の絵(ロジャースの周りで彼の書いたミュージカルに登場した役者たちが演じている)がハーシュフェルドの手になるものだ。
 1927年以来ニューヨーク・タイムズを中心に、演劇・映画世界の人物たちを描き続けてきた(そして今なお現役!)人で、ブロードウェイでは、その功績に対して2度、トニー賞が贈られている。

 そのアル・ハーシュフェルドが、1951年に書いた(絵だけでなく、むしろ文字中心に)ブロードウェイ演劇界内幕本がある。タイトルがシャレていて、「SHOW BUSINESS IS NO BUSINESS」
 その翻訳本が昨年暮れ発売になった「笑うブロードウェイ」(小学館)で、翻訳は、ブロードウェイ・ミュージカル好きで知らぬ者なき大平和登、装丁は和田誠の両氏――。
 ってとこでバラしちゃいますが、担当編集はワタクシめでございまして、いささか宣伝めきますがお許しを。

 この本、実にケッサクで、半世紀近く経っても色褪せない皮肉なユーモアと警句に満ちている。
 例えば、第2章のプロデューサーについて書かれた章に、こんな一節がある。

 [プロデューサーになるためには、こう言いさえすればいいのです、「私はプロデューサーだ」と。
 “おなじみの”プロデューサーになるためには、新聞のブロードウェイ欄に、できるだけ何度も、この発言を載せてもらわなければなりません。
 “定評ある”プロデューサーになるためには、芝居をプロデュースしなければなりません。
 “偉大な”あるいは“著名な”プロデューサーになるためには、プロデュースした芝居が大当たりしなければなりません。]

 そして、同じプロデューサーの章に、こんなインチキなプロデューサーの話が出てくる。

 彼は、必要以上の投資を募る。そして、プロデュースした芝居は成功させない。結果、投資家に利益を払い戻さない。つまり、余分に集めた投資を着服してしまうわけだ。
 そういう輩がかつてはいた、という話。

 このアイディアを実行に移して大儲けを企んだ2人の男を描いたのが、映画『プロデューサーズ』(1968)。
 メル・ブルックスの初監督作品で日本では劇場未公開。

 この映画、コメディとして傑作というわけではない。
 が、舞台裏でうごめく魑魅魍魎とも言うべき人間たちの生態が、誇張されているとは言え非常に生々しく描かれ、興味津々。「笑うブロードウェイ」同様、楽屋の匂いすら感じさせる細部の描き込みは、さすが、その世界に生息した人ならでは。
 コート劇場という実在のブロードウェイの劇場も出てきて、演劇世界に興味のある人なら大いに楽しめるはず。

 それはそれとして。

 この映画で最も面白いのは、主人公たちがプロデュースするミュージカル。その名も『ヒトラーの春 SPRINGTIME FOR HITLER』(って太字にするこたあないか)。
 このネタなら絶対に外れるだろうと、2人のプロデューサーが、ヒトラーを信奉するクレイジーな脚本家に書かせたミュージカルで、ヒトラー及びナチス・ドイツを絶賛する話。
 このテーマ曲がいいんだ。

 Springtime for Hitler and Germany……

 一度聴いたら忘れられない美しいこの曲に乗って、ナチの将校たちとドレスアップした淑女たちが、ジーグフェルド・フォリーズもどきで華麗に踊る。ここ、大マジで振り付けられていて、この映画中、ブルックスの力が最も入った箇所と見た。
 ミュージカル・ファンなら一度は観ておきたい名場面です。

 主演は、『ローマで起こった奇妙な出来事 A FUNNY THING HAPPENED ON THE WAY TO THE FORUM』『屋根の上のヴァイオリン弾き FIDDLER ON THE ROOF』で知られるゼロ・モステル Zero Mostel と、ブルックス映画の常連、ジーン・ワイルダー Gene Wilder。

 ところで、この映画のヴィデオは当初吹き替え版のみ出ていたらしく、それを、作家のH本治氏から拝借して観たのが初見(H本氏のヴィデオ・コレクションは僕には垂涎モノであります)。
 が、その後マメに中古ヴィデオ屋を回っていて、写真の字幕版を見つけた。
 もしかしたら普通に売っているのかも(あるいはレンタルしているのかも)しれませんが、探してみてください。

(11/2/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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