『メル・トーメ・スウィングズ・シューバート・アレイ
MEL TORME SWINGS SHUBERT ALLEY』

メル・トーメ Mel Torme(Verve)

粋なミュージカル・ソングズ

 かれこれ1年ぐらい前のこと、新宿東口のタワー・レコードで、この CD に手書きの解説カードがつけられているのを見かけたが、それには“シューバート・アレイ”が人名だと書いてあった。ブロードウェイの大プロデューサーだと。
 惜しい。
 シューバートは間違いなく演劇プロデューサーの名前だが(シューバート兄弟の作り上げたシューバート・オーガナイゼーションはブロードウェイの劇場の大半を所有し、アメリカ演劇界に大きな影響力を持っている)、“シューバート・アレイ”は“アレイ”ですからして、小道の呼び名。ミンスコフ劇場の裏手、ブース劇場とシューバート劇場の脇を 44丁目から 45丁目に抜ける通りをそう呼ぶ。
 こちらがその通りに埋められたプレートだ。

 この『メル・トーメ・スウィングズ・シューバート・アレイ』は、亡きフランク・シナトラ Frank Sinatra と並ぶ男性ジャズ・ヴォーカル界の国宝的存在メル・トーメが 60年に録音したブロードウェイ・ミュージカル楽曲集で、要するに、“シューバート・アレイ”はブロードウェイ演劇界を象徴する言葉なんですね。

 この盤と、ニューヨークを歌った楽曲を集めた『ニューヨークの休日 SUNDAY IN NEW YORK』(Atlantic)を表裏に入れたメル・トーメ“ニューヨーク特集”は、一時通勤電車での愛聴カセットだった。気分だけでもニューヨークに飛んで、うんざりするような日々をなんとか持ちこたえようとしていたわけであります。

 そんな風に散々聴き込んだにも関わらず、飽きるということがまるでなく、今でもときどきカーステレオで楽しんでいる。
 それもそのはず、僕は知らなかったが、『スウィングズ・シューバート・アレイ』はジャズ・ファンの間では評価の定まった名盤だったのだ。
 バックは、メンバーにアート・ペッパー Art Pepper の名前も見えるマーティ・ペイチ Marty Paich のオーケストラで、タイトル通り実によくスウィングする。
 採り上げているのは 40〜50年代にヒットしたミュージカルの楽曲で、僕が惹かれたのはもちろんこの部分。
 最も古いのが「The Surry with the Fringe on Top」(43年『オクラホマ OKLAHOMA!』)、新しい方は「Just in Time」(56年『ベルズ・アー・リンギング BELLS ARE RINGING』)。『マイ・フェア・レディ MY FAIR LADY』『王様と私 THE KING AND I』といった超有名作もあるが、CD を買った当時はタイトルも知らないに等しかった『ハウス・オブ・フラワーズ HOUSE OF FLOWERS』のような作品(上演回数165回のこの作品だけはヒットしたとは言えないが、トルーマン・カポーティ Truman Capote の脚本・作詞で有名)の曲もあり、勉強にもなった。
 しかし結局は、なによりメル・トーメの“粋”と呼ぶにふさわしい洒脱な歌が素晴らしく、例えば『ジプシー GYPSY』の「All I Need is the Girl」などは、リヴァイヴァル舞台をブロードウェイで何度か観ていたのに、こんなにいい歌だったんだと、トーメのヴァージョンを聴いて再認識したりした。

 僕が勝手にカップリングさせた『ニューヨークの休日』の方は前述したようにアバウト・ニューヨーク曲集だが、「New York, New York」(『オン・ザ・タウン ON THE TOWN』)など何曲かミュージカルの楽曲が入っている。そんな中、最後に置かれたロマンティックな「My Time of Day」(『ガイズ・アンド・ドールズ GUYS AND DOLLS』)が、1分 20秒と短いながら絶品。

 メンバーは違うが、『スウィングズ・シューバート・アレイ』同様マーティ・ペイチ・オーケストラがバックを務めた 55年の『メル・トーメ・シングズ・フレッド・アステア MEL TORME SINGS FRED ASTAIRE』(Bethlehem)も文句のない出来。
 同趣向の『A TRIBUTE TO BING CROSBY (邦題未確認)(Concord)は時代が飛んで 94年の盤だが、渋いバラード集で、円熟と呼ぶよりない仕上がり。愛する方とお2人でワインでも飲みながら、どうぞ(なんてね)。

 [次回予告]

 『バンド・ワゴン THE BAND WAGON』ブロードウェイ・オリジナル・キャスト盤(?)登場!(予定)

(6/1/1998)

 『A TRIBUTE TO BING CROSBY』の邦題は、まんま『ビング・クロスビーに捧ぐ』でした。

(8/1/1998)

Copyright ©1998 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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