『世界中がアイ・ラヴ・ユー EVERYONE SAYS I LOVE YOU』
ウディ・アレン Woody Allen

ミュージカル“の・ような”映画

 とうとう公開されちゃいました。ウディ・アレン監督のミュージカルと呼ばれている映画『世界中がアイ・ラヴ・ユー』

 いきなり自慢から入りますが、この映画、ニューヨークで封切り日(今年の1月10日)に観ました。それも最初の回に。

 たいした自慢じゃないか。
 で、驚いたのが、入りの悪さ。まあ、金曜の午前中ですからねえ。
 でも、もしかしたら、ウディ・アレン映画はアメリカではあまり人気がない、という話を裏付ける厳然たる事実なのかも。
 なんて話はどうでもいいや。

 (大声で)警告。この映画は『エビータ EVITA』のような“本格的ミュージカル映画”ではない。だまされてはいけません。
 (ここから小声で)でも、あなたが心からミュージカルが好きなら、だまされに出かけるべし。ただし、誘っていいのは同好の士に限ります。

 まあ、そんなわけで字幕付きで観直したわけですが、いやあ楽しい。

 はっきり言って、内容的にはどうでもいいような映画です。
 マンハッタンに住む金持ち一家に起こるバカげた出来事を、季節の移り変わりと共に約1年にわたって綴っていく。パリやヴェニスも出てきたりして、いい気なもんだと思う人がいてもおかしくない。

 ミュージカル映画としても、ショウ場面の完成度が高いわけじゃない。
 歌はうまくないし、ダンス場面も、半分はホンモノのダンサーだけれども半分は踊れない。お金のかかったセットや凝った撮影があるわけじゃ(ほとんど)ない。楽曲も古い既成曲ばかり。
 おまけに、なんだかモソモソと歌いだすし、およそ洗練とはほど遠い。

 でも、ここには、往年のミュージカル映画が持っていた“イノセント”な心がある。いや、正確に言うなら、“イノセント”な心に近づこうとする心がある。
 それ(“イノセントな心”)は、映画版『ウエスト・サイド物語 WEST SIDE STORY』(61年)の登場以降、日に日に衰えていったミュージカル映画のマジックで、こればっかりは SFX がいくら発達しても簡単にはよみがえらない。

 ミュージカル映画が“イノセント”さなど顧みなくなり、つまらなくなっていく一方で、それを取り戻そうとする人たちも少数ながらいて、彼らは古い時代設定や古い映画のスタイルを借りることで一応の成果を得てきた(『モダン・ミリー THOROUGHLY MODERN MILLIE』『ボーイフレンド THE BOY FRIEND』『ダウンタウン物語 BUGSY MALONE』etc.)。
 が、この映画でウディ・アレンが試みたのは現代を舞台にした“イノセント”なミュージカル作り。で、それなりに成功していると思うわけです。何度も言うように“本格的”じゃないけれども。

 “本格的”にならなかった理由は、完全には“イノセント”になれないからで、まあ、ある種の“照れ”ですな。どこかで「シャレです、シャレ」って言ってなくちゃ、やれない。
 でなきゃあ、MTV みたいな臆面もない“本格的ミュージカル映画”を作るしかないってことになる。

 とにかく、この映画は、日常から突然非日常へという、あのワクワクするようなミュージカルならではの飛躍を、クスクス笑いにくるんで味わわせてくれた。やってくれたねって感じ。少しばかりこそばゆいけれども。
 “イノセント”だった頃のミュージカル映画に比べれば、ミュージカル“の・ような”映画かもしれないが、楽しめること請け合いです。

 ところで、パンフレットにも詳しく書かれていませんが、振付のグラシエラ・ダニエル Graciela Daniele は、紛れもない“本格的”な振付家。『ワンス・オン・ディス・アイランド ONCE ON THIS ISLAND』(どうも日本で付けた『楽園伝説』というタイトルは的外れな気がする)『ハロー・アゲイン HELLO AGAIN』『予告された殺人の記録 CHRONICLE OF A DEATHFORETOLD』と次々に意欲的なダンス・ミュージカルを発表。ラテン色の濃い官能的な振付で異彩を放っている人だ。
 この映画では、オーソドックスに、遊び心いっぱいでやってますが。

 もう1人。ダンサーで顔のわかった人がいたので。
 宝石屋の店員に扮していたのが、『スティール・ピア STEEL PIER』で印象深いダンスを見せたグレゴリー・ミッチェル Gregory Mitchell(たぶん。クレジット見落としましたが)。店内のダンス・シーン、最後に向かって右側のテーブルの上にいるのがそうです。

 そして最後に。
 この映画のタイトルは、中にも出てくる同名曲から取られていて、それがマルクス・ブラザーズの映画『御冗談でしョ HORSE FEATHERS』からのものであることはパンフレットにも書かれているが、この日本語訳、ちょっとニュアンスが違う気がする。
 だって、Everyone says I love you って、僕が君を愛してるって誰もが言う、って意味でしょ。世界中がアイ・ラヴ・ユーじゃ、みんなが誰かを愛してるって意味みたいにとれる。まあ、そんな感じの内容ではあるのですがね。

(10/23/1997)

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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