『IN YOUR DREAMS』
Christine Ebersole with Billy Stritch(Ghostlight)

トニー賞女優のショウを小さなクラブで観る気分

 06- 07年シーズンのトニー賞で主演女優賞を受賞したクリスティーン・エバーソールは、00- 01年シーズンにも、リヴァイヴァル版『フォーティセカンド・ストリート 42ND STREET』に出演して同賞を獲得している。その年のトニー賞の感想で、僕は次のように書いた。

 [唯一の不満は、『プロデューサーズ』との争いがなかった主演女優がフェイス・プリンス Faith Prince に行かなかったこと。ホントにあのドロシー役の人でいいの?]

 その [ドロシー役の人] がエバーソール。あんまり顔向け出来ない表現ではある(笑)。
 が、言い訳すれば、ここで言っているのは、エバーソールの演技がどう、とかいうことではなく、あの作品の中でのドロシーが役として主演女優と呼ぶべきものだったかどうか……。いや、それ以前に、あのシーズンの主演女優的主演女優と言えば『ベルズ・アー・リンギング BELLS ARE RINGING』のフェイス・プリンスしかいないだろう、という気持ちが強かった、と。でも、正直言って、彼女にそんなに感銘も受けなかった、というのも事実で、観る目がないと言うか……、まあ、そういうことです(笑)。

 そのエバーソールが、『フォーティセカンド・ストリート』で共演したビリー・ストリッチと組んで 04年に出したのが、『IN YOUR DREAMS』。 2人で(ベーシストが 1人いるが)小さなクラブでショウをやっている気分のアルバムだ。

 “共演”と言っても、ストリッチは元々はシンガー・ソングライター、ピアニスト、編曲家。ブロードウェイでも『ミネリ・オン・ミネリ MINNELLI ON MINNELLI』に編曲でクレジットされているような人で、したがって、役者としては『フォーティセカンド・ストリート』がブロードウェイ・デビューとなっている。この出演、もしかしたらシャレみたいなものだったのかもしれない。
 ともあれ、このアルバムでは、ビリー・ストリッチは編曲者兼ピアニスト兼歌手として、かなりの活躍を見せる。なにしろ、 13曲中 2曲をストリッチがソロで歌っているのだから(そのストリッチのソロの 1曲が「We're in the Money」で、それを含め、『フォーティセカンド・ストリート』からのナンバーが 3曲、中盤に並ぶのは、この時期に本当にこの 2人がクラブでショウをやっていたら、と考えると当然の流れだろう)。

 さて、“主演”のクリスティーン・エバーソールだが、このアルバムを聴くと、彼女が実に表情豊かな歌手であることに気づく。正直言うと、彼女のソプラノは個人的には好みではないのだが、それでも耳をそばだててしまうだけの魅力がある。
 殊に、抑え気味に歌うといい。
 ベストは「The Folks Who Live on the Hill」。『たくましき男 HIGH, WIDE AND HANDSOME』という 1937年のミュージカル映画の挿入歌で、作者はジェローム・カーン Jerome Kern(作曲)とオスカー・ハマースタイン 2世 Oscar Hammerstein U(作詞)。映画ではアイリーン・ダン Irene Dunne が歌ったらしく、今ではスタンダード化しているようだが、僕は初めて聴いた。しっとりとした歌唱が、沁みる。
 もう 1曲印象に残るのが、こちらは僕も知ってる、クルト・ヴァイル Kurt Weill(作曲)とアイラ・ガーシュウィン Ira Gershwin(作詞)による『暗闇の女 LADY IN THE DARK』のナンバー「My Ship」で、何が印象に残るかと言うと、途中、エバーソールがやる“口(くち)トランペット”(トランペットの声帯模写)。普通のミュージカル女優だとやりそうにない、この“芸”に、やがて演じることになる『グレイ・ガーデンズ GREY GARDENS』の主人公との共通性を感じてニンマリする。

 ヴァラエティに富んだ楽曲群だが、並びには演出が感じられ、その辺もクラブのショウ然としている理由だ。聴きだすとクセになり、昨年はかなりの頻度でこのアルバムがプレイヤーに入った。
 よろしかったら、お試しあれ。

(4/3/2008)

Copyright ©2008 MIZUGUCHI‘Misoppa’Masahiro

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