『CHICAGO The Musical 〜10th Anniversary Edition』
Broadway Original Cast and others(Sony BMG Music Entertainment)

10年に 1度の記念盤

 このサイトの公式オープンが 1997年の 5月 1日。実際には、その 2か月ほど前からプレオープンしていて、いくつかの観劇記をアップしてあった。その中の 1つが『シカゴ CHICAGO』で、それは同年 1月に観たリチャード・ロジャーズ劇場の舞台についてのものだが、そこでも書いたように、僕が初めてウォルター・ボビー Walter Bobbie 演出によるリヴァイヴァル版『シカゴ』を観たのは、 1996年 5月 4日、シティ・センターにおいてだった。

 [しつこくニューヨークを訪れて劇場に足を運んでいると、信じられないほど素晴らしい舞台に出会うことがある。土曜の夜にシティ・センターで観た『シカゴ』はまさにそんな舞台だった。]

 と、観劇直後に友人宛に送った「ゆけむり通信 Vol.21」(サイト開設以前はプリントアウトによる報告だった)に書いているが、そもそもゴールデン・ウィークという航空運賃の高い時期に渡米したのが、数回しか公演のない“アンコールズ!”シリーズの、この『シカゴ』を観るためだった。当時、僕は、とにかく『シカゴ』が観たかった。
 そのきっかけは、大平和登氏の著書「ブロードウェイ」の 75年の『シカゴ』初演評だが、その後、「All That Jazz」をはじめとする『シカゴ』のナンバー 4曲を含むカンダー&エブ John Kander & Fred Ebb 作品を集めた舞台『アンド・ザ・ワールド・ゴーズ・ラウンド AND THE WORLD GOES 'ROUND』を観、初演『シカゴ』の一部(その後観直していないが当時の印象は TV用プロモーション映像)が出てくる「ダンス・イン・アメリカ」というフォッシィ特集 TV番組を観るに及んで、『シカゴ』に対する思いは、ほとんど渇望に近くなっていた。
 だから、“アンコールズ!”シリーズでの上演が決まるやいなやチケットを手配して(当時の“アンコールズ!”シリーズは非常に人気があり、今のように半額チケットが出たりはしていなかった)ニューヨークへ飛んだわけだが、シティ・センターの舞台は、その大きな期待をはるかに上回って刺激的だった。これは 10年に 1度出会えるかどうかという舞台だ、と直感的に思ったものだ。
 あれから本当に 10年が流れ、未だに僕は、あの時の『シカゴ』を超える舞台に出会っていない。

 この『CHICAGO The Musical 〜10th Anniversary Edition』は、そのシティ・センターでの成功から半年後にブロードウェイに所を移して幕を開けて(96年 11月 14日)からの“10周年”記念盤で(先日、記念公演が行なわれていた)、 2枚の CDと DVD 1枚のセットになっている。
 正直、誰にでもオススメ出来るという内容ではないのだが、ピンポイントで僕のツボにはハマった。

 オススメ出来ない理由は、まず、 DVDの内容が思ったほどじゃないから。
 DVDの映像は大きく 2つのパートに分かれ、前半が関係者へのインタヴュー、後半が舞台録画になっている。
 前半のインタヴューに登場するのは、演出のウォルター・ボビー、振付+ロキシー役のアン・ラインキング Ann Reinking、ヴェルマ役のビビ・ニューワース Bebe Neuwirth、作曲家のジョン・カンダー John Kander(作詞のフレッド・エブ Fred Ebb は先年亡くなった)、音楽監督のロブ・フィッシャー Rob Fisher、プロデューサーのバリー&フラン・ワイスラー Barry & Fran Weisslerで、話の中身は、興味深くはあるが、驚いたり喜んだりするほどのものではない。
 後半は「All That Jazz」「All I Care About」「Roxie」の舞台映像――と聞くと期待してしまうが、これが、オランダ、イタリア、ブラジル、ドイツ、メキシコ、ロシアという(アメリカにとっての)海外上演ヴァージョンを細切れにしてつなぎ合わせたもので、まあ、オマケの域を出ない。

 では 2枚の CDの方はどうかと言うと、ディスク 1は既発のリヴァイヴァル・オリジナル・キャスト盤まんま。その録音時の未発表音源等一切なし。というわけで、残る 1枚が、いわゆる特典音源集ということになるのだが……。

 ディスク 2に収められているトラックは全部で 12。内 7曲が過去音源で、残り 5曲がこの CDのための新録音源だ。
 新録? 誰の? 近年ブロードウェイの舞台に登場した“ゲスト・スター”たちの、だ。
 具体的に言うと、ママ・モートン役リンダ・“ワンダーウーマン”・カーター Lynda Carter の「When You're Good To Mama」、フリン役ジョン・オハーリー John O'Hurley の「All I Care About」、ロキシー役ブルック・シールズ Brooke Shields の「Roxie」、ロキシー役メラニー・グリフィス Melanie Griffith の「Me And My Baby」、ロキシー役ビアンカ・マロキン Bianca Marroquin の「Funny Honey」「Me And My Baby」「Nowadays」のスペイン語によるメドレー。ロンドンで観たブルック・シールズの収録もうれしいが、僕のツボは、やはりこちらにハラハラの観劇記を書いたメラニー・グリフィスだ。歌えない彼女の歌を、よくぞ記録として残してくれました。しかも録音場所がロスアンジェルスのバンデラス=グリフィス・スタジオと来る。やっぱ大物だわ。
 一方の過去音源の中にもツボにハマった録音がある。ライザ・ミネリ Liza Minnelli の「My Own Best Friend」がそれ。 75年にシングルとしてリリースされた音源らしい。
 ごぞんじの通り、ライザは、 75年 6月に幕を開けた初演版で、主演のグエン・ヴァードン Gwen Verdon の急病により 8月から約 1か月間の期限付きでロキシーを演じている。それが非常に素晴らしかった、と大平和登氏の「ブロードウェイ」(作品社)にあったのが、そもそもの僕と『シカゴ』との出会いなのだ。おそらく、その時の出演に合わせてのシングル・リリースだったのだろう。こんな音源があったとは。うれしい驚きだ。
 ちなみに、過去音源の中には、初演版の正式オープン前に削られたナンバー 2曲の楽曲作者たちによるデモ・ヴァージョンも入っている。この辺も興味のある方には貴重だろう。

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 さて、ライザ・ミネリの話になったので、ついでに、今年になってから DVD化された彼女の代表作『LIZA WITH A “Z”』(Showtime Entertainment)も紹介しておく。
 72年のエミー賞で 4部門の受賞を果たした TV番組だが、スタジオで撮られたものではなく、ブロードウェイの劇場でのライヴを撮影したもの。しかも、撮影はヴィデオではなくフィルムで行なわれていて、ホットな臨場感が生まれている。
 舞台上の演出・振付のみならず、撮影の演出も、乗りに乗っていた時期のボブ・フォッシーであることを考えれば、当然と言えば当然の出来だが、なにより、ライザのパフォーマンスが、――いや、ライザ自身が素晴らしい。おそらく彼女の生涯を通じて最高の瞬間だろう。体の内側から輝いているようなオーラがある。
 ちなみに、『フォッシー FOSSE』に出てくる「I Gotcha」と「Bye Bye Blackbird」のオリジナルは、この舞台のパフォーマンスだ。
 このプロジェクト、オリジナル楽曲を含めカンダー&エブも深く絡んでいて、要するに、映画版『キャバレー CABARET』つながりのチーム編成なのだが、これがそのまま、 3年後のライザの『シカゴ』登板につながったのだろうと思われる。
 なお、コレクターズ・エディションと銘打たれたこの DVDには、特典映像とサウンドトラック CDが付いている。

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 ところで、『CHICAGO The Musical 〜10th Anniversary Edition』のブックレット部分にブロードウェイ開幕以来のリヴァイヴァル版『シカゴ』の歩みや記録が書いてあるのだが、その最後に、「2008年に(このヴァージョンとしては、という意味だと思うが)初めて日本語で上演される」とある。どこがやるんだろう。
 最後にもう 1つ。今年の大晦日公演からビビ・ニューワースがロキシー役でブロードウェイ『シカゴ』に登場予定。 3月までの期間限定出演とのこと。僕は 2月のチケットを買っちゃいました(笑)。

(11/18/2006)

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