『HELLO, DOLLY!』
Broadway Cast starring Ethel Merman

怪しい“ブロードウェイ・キャスト盤” 2種

 キャロル・チャニング Carol Channing の当たり役『ハロー・ドーリー!』のドーリー役が元々はエセル・マーマン Ethel Merman を想定して作られていたことは、スタンリー・グリーン Stanley Green の「BROADWAY MUSICALS Show By Show」を読んで知っていた。でもって、その主演は、チャニングから、ジンジャー・ロジャース Ginger Rogers、マーサ・レイ Martha Raye、ベティ・グレイブル Betty Grable、ビビ・オスターウェイド Bibi Osterwaid、パール・ベイリー Pearl Bailey、フィリス・ディラー Phillis Diller と引き継がれて、最後にマーマンが登場したことも。
 そのマーマンが主演していた時の『ハロー・ドーリー!』のブロードウェイ・キャスト・アルバムがあるとしたら、そして、それを見つけたとしたら、あなたはどうしますか。しかも、ネット・オークションとかで競りにかかっているのではなく、目の前に置いてあって 25ドルで売られているとしたら。
 僕は、まさにその状況に出会った。具体的には、シューバート・アレイを南に抜けて右に曲がった、 44丁目の中ほどの北側に出ていた屋台(っつっても折り畳み式足の付いた横長のテーブル)の上に何種類かの CDが展示されていて、その中の 1種(2枚組)がマーマン版『ハロー・ドーリー!』のブロードウェイ・キャスト盤だったのだ。
 と言っても、それは、透明な CDケースに上掲写真のピクチャー CDが入っただけのもの。明らかに私家盤であり、中身についての保証はどこにもない。一緒に売られているのは、これまで見たことのないジュディ・ガーランド Judy Garland のライヴ盤が何種類か。それに、デビー・アレン Debbie Allen が主演した 86年リヴァイヴァル版『スウィート・チャリティ SWEET CHARITY』の、これまたブロードウェイ・キャスト・アルバム。いずれもスリーヴなしの透明 CDケースにピクチャー CDだけが入っている。その“ピクチャー”も、いかにもコピーした感じ。
 なんでもない時に売られていたら……それでも買ったかもしれないが(笑)、しかし、かなり疑ってかかったに違いない。ところが、時は今年の 9月 25日。となれば、そこは第 19回ブロードウェイ蚤の市の会場。ということは、俳優基金/エイズ基金のためのチャリティなわけで、そこで売られている品なら、たとえ私家版とはいえ、少なくとも看板に偽りはないんじゃないか。「廃盤になった LPの盤起こし CD(LPの再生音を焼いた CD)かも」と僕は思った。だって、“ピクチャー”が、なんとなく LPの裏ジャケっぽいでしょ。
 ま、とにかく、どこか素人臭い売り子のおばさん(劇場関係者だろう)を信じて 25ドル支払った(余談だが、僕のすぐ後に同じ盤を買う男の人がいて、こういう時って不思議な同志意識が湧きますね)。
 で、だ。中身はどうだったのか。
 これが、紛れもない“ブロードウェイ・キャスト・アルバム”だった。しかも“ライヴ”。でもって、セリフまで入っている(だから 2枚組なのだ)。おまけに、隣の席にいる観客の、やけに大きな拍手や笑い声やおしゃべりまで。
 要するに、客席で録音しているわけですね。『ハロー・ドーリー!』の始まりは 64年だが、 8年近くやってたから仮に 72年の録音だとすると、カセットテープのデンスケ(携帯録音機)はまだかもしれないがオープンリールのデンスケはあったはずだから、そうしたものを使ったのだろう。しかし、“携帯”とはいえ録音機のサイズは巨大な弁当箱ぐらいはあるわけで、録音していることは誰の目にも明らか(ナグラにはウォークマンサイズのオープンリール録音機があったらしいが、スパイじゃあるまいし、使ってはいないだろう)。だとすれば、録音者はプロデューサーの許可を得た関係者だった可能性が高い。そう言えば、売っていた CDの脇に「The final performance of Ethel Merman's HELLO, DOLLY!」と書いたカードがあったようななかったような……。これが最終公演の音ではないにしろ(もし、そうだったら感慨も一入だが)、公演の終了が決まってから記念に関係者が録音したのかもしれない。
 ともあれ、周囲の雑音を突き破ってマーマンの“ナマ声”が響いてくるのは感動的。ハイライト・ナンバーである「Before The Parade Passes By」や「Hello, Dolly!」では、マーマンの歌の迫力に客席も静まり返るので、演奏もかなりハッキリと聴こえる。そして、歌い終わっての観客の心からの拍手。臨場感たっぷりで、録音環境や音質の問題はあるものの、けっこう楽しい。
 誰にでもオススメ出来る代物ではないが、お好きな方は機会があったらお試しあれ。 CDの成り立ちから言って、ブロードウェイ蚤の市には毎年出品されているいる可能性もあるんじゃないかと思うから。

 怪しい“ブロードウェイ・キャスト盤” 2種の、もう 1種は、私家盤ではなく、れっきとした公式盤で、僕は米アマゾンで買った。
 タイトルは『INSIDE U.S.A.』。前掲「BROADWAY MUSICALS Show By Show」によると 1948年春にオープンした、このミュージカル・レヴューに、ことさら関心があったわけではない。
 ただ、この CD、アマゾンではタイトルを、こう表現してあるのだ。

 Inside U.S.A./The Band Wagon [CAST RECORDING]

 で、 CDの後半には、次のような楽曲名が並ぶ。

 15. Overture/ Sweet Music/ High And Low
 16. Hoops/ Confession/ New Sun In The Sky/ I Love Louisa
 17. Ballet Music/ Beggars Waltz
 18. White Heat/ Dancing In The Dark
 19. Dancing In The Dark
 20. High And Low
 21. I Love Louisa
 22. New Sun In The Sky
 23. That's Entertainment
 24. Triplets
 25. Louisiana Hayride

 でもって、こんな解説文が付いている。

 Features songs from two hit Broadway shows by Howard Dietz and Arthur Schwartz starring Fred Astaire, Perry Como and more. Inside U.S.A. was recorded before the show was fully cast in order to beat the 1948 ASCAP strike, which explains why non-cast members performed some of these songs. Most tracks on CD for the first time!
 (ディーツ&シュワルツ Howard Dietz and Arthur Schwartz の 2つのブロードウェイ・ショウからの歌が収録してあり、歌っているのは、フレッド・アステア Fred Astaire、ペリー・コモ Perry Como、他。(中略)ほとんどの音源が初 CD化である!)

 昔からこのサイトをのぞいてくださっている方は、 98年に、この [MY FAVORITES] のコーナーで、「『バンド・ワゴン』ブロードウェイ盤?」というタイトルで、アステアの古い録音を集めた CD『RARITIES』を採り上げたことを、ご記憶のことと思うが、そこで書いたのは、 [残念ながら、この当時は、オリジナル・キャスト・レコーディングという習慣がなかった。だから、正確に言えば、舞台を再現する形での音は残っていないのだが、それに近いものが、実はある。] という文章だった。
 しかし、このアマゾンの CDタイトル表現や解説を読むと、もしや、と思わずにはいられない。ついに、『バンド・ワゴン THE BAND WAGON』のオリジナル・キャスト・レコーディングが発掘されたのか、と。
 ま、ここで、あんまりもったいぶっても後が続かないので(笑)オチを明かすが、そのような発掘音源ではなかった。
 ……どころか、上記楽曲の内、 15〜 18は、まさにその『RARITIES』に入っていた音源だった。そして、 23〜 25は、このコーナーの第 1回に登場した MGM映画版『バンド・ワゴン』サウンドトラックからの音源。残る 4曲は、その映画公開の年に録音されたらしいカヴァーの数々。
 そんなわけですので、あわてて購入されることのなきよう、ご注意申し上げます。

(11/16/2005)

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