『ジプシー GYPSY』
5/22/1990
(ST. JAMES THEATRE, Broadway)
6/5/1991
(MARQUIS THEATRE, Broadway)


“舞台への愛”にあふれた傑作

 今年バーナデット・ピータース Bernadette Peters 主演でリヴァイヴァルした『ジプシー』。僕は、 2度目のブロードウェイ・リヴァイヴァル公演となる 89年版を、途中湾岸戦争を挟んで 90年と 91年に観た。
 03年版の観劇記をアップする前に、参考のために、当時の観劇記を掲載する。

 まずは、 90年 5月 22日の観劇記(90年 11月発送「ゆけむり通信 Vol.6」)。

 作曲/ジュール・スタイン Jule Styne、作詞/スティーヴン・ソンダイム Stephen Sondheim、脚本/アーサー・ローレンツ Arthur Laurents、演出・振付/ジェローム・ロビンズ Jerome Robbins、主演/エセル・マーマン Ethel Merman による『ジプシー』は、 1959年 5月 21日ブロードウェイ劇場で開幕、公演 702回。
 [ジプシー・ローズ・リーの冷酷な母親を演じたエセル・マーマンの生涯の当たり芸、そして傑出した出来栄えとなった音楽と脚本によって、『ジプシー』はミュージカル史上に残る傑作の一つとされる。] (スタンリー・グリーン Stanley Green「ブロードウェイ・ミュージカル from 1866 to 1985 BROADWAY MUSICALS Show By Show」青井陽治/訳)。
 その後、 1974年に新たなメンバーで、ウェストエンド→ブロードウェイで公演。この時の演出は、今回も演出を手がけているオリジナル脚本家のアーサー・ローレンツ。 1962年には映画化もされている。

 典型的なステージ・ママが、自分の娘(姉妹の妹)をスターにしようと、脇役の男の子たちをスカウトして旅興行をする。ところが、思春期になった娘は男の子の 1人と駆け落ち。めげずに母親は、脇役だった引っ込み思案の姉を一座の中心に据える。が、うまくいかない。ところが偶然から、娘(姉)はバーレスクの世界でストリップのスターになり、自立していく。自分の役目が終わったと気づいた母親は、寂しさと娘への嫉妬を感じながら、もう一度力強く自分自身の歌を歌う。
 母親ローズ役のタイン・デイリー Tyne Daly のバイタリティに圧倒される。その源が、スターになっていく娘に対して嫉妬心とライバル意識を燃やすという劇中の設定だけでなく、実際に娘を演じるクリスタ・ムーア Crista Moore (ブロードウェイ初出演) への対抗心もあるように見えて、スリリング。

 演出でアッと思ったシーンが 3つ。
 1つは、子供たちの成長をステージ上で一気に見せたシーン。小さい子供たちが舞台の幕前に横いっぱいに広がり、軽快な曲をバックに、実際には同じ位置で、上手から下手に向かって走っていくかのように手足を前後に大きく動かす。ライティングがストロボに変わる。ふと気がつくと、子供たちはみんな成長した役者に入れ替わっている!!
 2つ目は、成長した姉がジプシー・ローズ・リー Gypsy Rose Lee となって初めてステージに立つシーン。ジプシー・ローズ・リーは舞台奥を向いて立っている。舞台はバーレスクのステージという設定で、彼女の向こうには閉じた幕、その向こうには劇中の想像上の観客がいる。劇中の幕が上がる。同時に、ジプシー・ローズ・リーは実際の観客に向き直る。その瞬間、劇中の観客と実際の観客とがシンクロする。
 もう 1つ。これも観客をうまく使った演出。母親ローズが、自分の幻想の中でステージに立ち、歌う。その歌に対して実際の観客が拍手をする。その拍手を、ローズは幻想の中の拍手として聞き、お辞儀をする。

 やはりブロードウェイで上演中のジェローム・ロビンズ振付作品の集大成『ジェローム・ロビンズ・ブロードウェイ JEROME ROBBINS BROADWAY』にピックアップされた、先輩ストリッパーたちによるユーモラスなストリッパー心得伝授シーン「You Gotta Have A Gimmick」は、迫力でこちらの勝ち。
 ヴォードヴィル全盛時代の香りを漂わせた、よく出来たミュージカルで、お薦めです。
 なお、ジプシー・ローズ・リーは実在した人物で、その自伝を元に劇化された。

 続いて、 91年 6月 5日の観劇記(91年 9月発送「ゆけむり通信 Vol.8」)。

 『ジプシー』は、今『秘密の花園 THE SECRET GARDEN』をやっているセント・ジェイムズ劇場で昨年観たものの再見。と言っても、湾岸戦争の影響で観光客が激減した際一旦幕を閉じ、劇場を替えて今年の 4月 28日から期間限定で続演を始めたというもの。
 マーキーズ劇場は大きい劇場で、親密な雰囲気が得られないのが難だが、それを感じさせない熱演を、この舞台でトニー賞はじめ 90年の主演女優賞を総ナメにしたタイン・デイリーを中心に、芸達者の役者たちが見せてくれた。 6月渡米の時点で 7月の何日かだった閉幕予定日が、 7月に渡米した時にはさらに延びていたと思う。

 この作品に関しては、ゆけむり通信 Vol.6で報告済みだが、本当によく出来ている。
 [傑出した出来栄え] の [音楽と脚本に] 支えられた [ミュージカル史上に残る傑作](「ブロードウェイ・ミュージカル from 1866 to 1985」)は、 30年の時を超えて甦り、人々の心を打つ。その秘密の 1つは“舞台への愛”という不変のモチーフであり、もう 1つはノスタルジーを誘うヴォードヴィル〜バーレスク全盛時代のバックステージ風俗ではないかと思う。
 が、やはり最大の魅力は、エセル・マーマンが創造した主役ローズの個性だろう。実は、オリジナルである 1959年版、エセル・マーマン主演オリジナル・ブロードウェイ・キャスト・アルバムの CDを買い、聴いてみた。これが、ほとんど今回の舞台と同じ印象なのだ。74年のリヴァイヴァル版のアンジェラ・ランズベリー Angela Lansbury(TVシリーズのミス・マープルとしてお馴染み。彼女はミュージカル・スターでもある)のローズはわからないが、タイン・デイリーのローズは明らかにエセル・マーマンの影響下にある。そこに初代ローズの個性の強烈さが見えるし、そのイメージなくしては、このミュージカルは成り立たないのだろうと思われる。

 その後、 93年にはベット・ミドラー Bette Midler 主演で TV版が作られたが、半ば舞台的な作りのその印象は、基本的にはタイン・デイリー版と変わらなかった。『ジプシー』という作品は、それほど完成度が高いということなのだろうと思う。
 ところで、初演のエセル・マーマン、 74年リヴァイヴァルのアンジェラ・ランズベリー、 89年リヴァイヴァルのタイン・デイリーと、これまでブロードウェイでは全てのローズ役者がトニー賞の主演女優賞を受賞している。さて、今回のバーナデット・ピータース、どうなるだろう。

(5/19/2003)


 うっかり、 [これまでブロードウェイでは全てのローズ役者がトニー賞の主演女優賞を受賞している] などと書いてしまいましたが、実は、初演のエセル・マーマンはノミネーションだけでした。失礼しました。
 ちなみに、このシーズンの主演女優賞受賞者は、『サウンド・オブ・ミュージック THE SOUND OF MUSIC』のメアリー・マーティン Mary Martin。なるほどね。

(5/30/2003)

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