『ガイズ・アンド・ドールズ GUYS AND DOLLS』
6/1, 7/25/1992, 6/3/1993, 1/4/1995
(MARTIN BECK THEATRE, Broadway)


91- 92年シーズンの充実リヴァイヴァル

 『ジェリーズ・ラスト・ジャム JELLY'S LAST JAM』のところでも書いたことだが、 91- 92年のシーズンはミュージカルの当たり年で、トニー賞授賞式当日(5月31日)のニューヨーク・タイムズ“アート&レジャー”欄第1面の見出しは、 [On Broadway, the Lights Get Brighter] というものだった。
 その日の授賞式でリヴァイヴァル作品賞を獲得したのが『ガイズ・アンド・ドールズ』。今シーズン(2000- 2001年)の新作で活躍しているフェイス・プリンス Faith Prince とネイサン・レイン Nathan Lane を広く世に知らしめた作品で、『クレイジー・フォー・ユー CRAZY FOR YOU』と共に、僕にアメリカン・ミュージカルの楽しさを徹底的に教えてくれた、イキのいい舞台だった。

 まずは、初めて観た時の観劇記(92年 6月発送「ゆけむり通信 Vol.10」)から(一部、読みやすく編集。以下同)。

 『野郎どもと女たち』(注:『ガイズ・アンド・ドールズ』映画化の際の邦題。舞台版も当初はこう呼んでいた)でトニー賞に輝いたフェイス・プリンスは、今シーズンのブロードウェイで最も注目を集めた女優で、トニー賞当日のニューヨークタイムズは、受賞確実と言うかのごとく "Faith Prince, How Does Your Garden Grow?" というタイトルで 1面を割いて彼女の特集を組んでいる。
 プレイビルを読んでいてわかったのだが、プリンスは 1988- 89年シーズンに『ジェローム・ロビンズ・ブロードウェイ JEROME ROBBIN'S BROADWAY』の助演女優でトニー賞にノミネートされている。この舞台の彼女を 89年 5月 8日に見ているが、印象的な 2つの役を演じていた。 1つは『ハイ・ボタン・シューズ HIGH BUTTON SHOES』の中年夫婦の妻役で、夫役のジェイソン・アレクサンダー Jason Alexanderと「I Still Get Jealous」というナンバーで優雅なソフトタップを見せる。もう 1つは『ジプシー GYPSY』のストリッパー役で、「You Gotta Have a Gimmick」で華麗(!?)で煽情的な踊りをユーモラスに披露。
 今回の役柄ミス・アデレードは後者に近い、さばけていて陽気なキャバレーの歌手兼ダンサー。それを、明るい性的魅力を発散しながら可愛らしく演じたプリンスには、華があった。観たのがトニー賞受賞の翌日だったこともあり、これがスター誕生の雰囲気なのだなと感慨深かった。

 1950年 11月 24日に幕を開けたオリジナルのプロダクションは、スタンリー・グリーン Stanley Green 著・青井陽治訳の「ブロードウェイミュージカル from 1866 to 1985」によれば、 [ブロードウェイで最も陽気なミュージカル・コメディーの一つとして歴史にその名を残した] 。
 1950- 51年のシーズンに、ベスト・ミュージカル、主演男優(ロバート・アルダ Robert Alda)、助演女優(イザベル・ビグリィ Isabel Bigley)、演出(ジョージ・S・カウフマン George S. Kaufman)、ミュージカル製作(サイ・フォイアー Cy Feuer、アーネスト・H・マーティン Ernest H. Martin)、ミュージカル作者(ジョー・スウェーリング Jo Swerling、エイブ・バロウズ Abe Burrows)、作詞作曲(フランク・レッサー Frank Loesser)、振付(マイケル・キッド Michael Kidd)でトニー賞を獲得している(今と分野が多少異なる)。

 デイモン・ラニヨン Damon Runyon の短編小説に出てくる、 1930年代のブロードウェイを舞台にしたギャンブラーと救世軍の女性とのロマンスと、サイコロ賭博 (クラップゲーム)の胴元とキャバレー歌手との永すぎる春の話をからめたストーリーが、そもそもコミカルで楽しい点は、『クレイジー・フォー・ユー』と共通している。
 今回のプロダクションが熱狂的に迎えられたのは、そこに登場するユニークで愉快な人物たちが、プリンスをはじめ脂の乗った役者たちによって生き生きと演じられたからだろう。彼らの戯画化された欲望や生命力のリズムは実に現代的だ。
 プリンスと並んでよかったのが、賭博の胴元ネイサン・デトロイト役のネイサン・レイン(注:若い頃、この役名に合わせて芸名をつけたという話を聞いた覚えがある)で、調子がよくて山っ気があるが実は人のいい、というキャラクターを見事に演じてショウを支えていた。イメージは、日本で言えば財津一郎か西田敏行。また、救世軍の女性上官役ルース・ウィリアムスン Ruth Williamson の、普段は堅苦しいが、いい男を見ると急に色っぽくなるという演技にも笑った。
 そしてダンス(振付クリストファ・チャドマン Christopher Chadman はトニー賞ノミネート)の躍動的な力強さ。ハバナのカセドラル広場(まで夜飲みに行く!)での男女カップル多数によるエロティックさを感じさせるチーク。サイコロ賭博師たちの地下に潜っての荒々しいダンス。救世軍に集まったギャンブラーたちの、説教を聞きながらの熱狂的なダンス(ここで中心になるウォルター・ボビー Walter Bobbie が素晴らしい)。
 トニー賞を獲ったトニー・ウォルトン Tony Walton の舞台装置、『クレイジー・フォー・ユー』でトニー賞受賞のウィリアム・アイヴィ・ロング William Ivey Long の衣装も、 30年代の雰囲気をアメリカン・コミック的に表現していて気分を盛り上げてくれる。
 やはりトニー賞を得たジェリィ・ザックスの演出はメリハリのある鮮やかなもので、今シーズン最もチケットを取りにくかった作品であったのも頷けた(オープニングの日までに約 7,000枚のチケット=$396,709.50を売り、 88年に『オペラ座の怪人THE PHANTOM OF THE OPERA』が作ったブロードウェイの記録=$359,000を破ったとか)。
 ところで、フェイス・プリンスと、もう 1人の主演女優で救世軍の女性サラ役ジョシィ・ド・ガズマン Josie de Guzman の 2人は、今シーズン初めには『ニック・アンド・ノラ NICK AND NORA』に参加していたようで、万が一『ニック・アンド・ノラ』が生きていたら『野郎どもと女たち』の成功はなかったかも。そう考えると不思議な気持ち(注:『ニック・アンド・ノラ』は、ブロードウェイの劇場に看板が掲げられたがオープンには到らなかったミュージカルで、当時、この作品に期待していたため、こうした記述になった)。

 続いて、 1年後、 3度めに観た時の観劇記(93年 7月発送「ゆけむり通信 Vol.12」)から。

 3度目の観劇だが、主要キャストが替わっている。
 トニー賞女優になったフェイス・プリンスとのコンビで完全にショウをさらっていた、ネイサン・デトロイト役のネイサン・レインが降板。彼の、西田敏行に似た風貌で焦りまくるコメディ演技は特筆ものだっただけに、替わったジョナサン・ハダリィ Jonathan Hadary(タイン・デイリィ Tyne Daly 主演の『ジプシー』で、その恋人を演じていた)は、レインに比べると渋く落ち着いた印象の自身のキャラクターに沿って、かなり大幅に役を作り直して演じている。
 一方、先日の東宝版では田原俊彦の演じたスカイ・マスターソン役のピーター・ギャラガー Peter Gallagher は、レインに食われて嫌気がさしたのか昨年の秋には降板。今回観たバーク・モーゼズ Burke Moses は、クールな 2枚目だったギャラガーに比べると精力的で、ユーモラスな魅力があった(注:その個性の延長線上でモーゼズは後に『美女と野獣 BEAUTY AND THE BEAST』の初代ガストンを演じる)。
 こうしたキャストの交替により、アデレイド&ネイサンのコミカル・カップルばかりが目立った当初の舞台から、サラ&マスターソンのロマンティック・カップルにも同等のウェイトのかかった舞台に変わった。おそらく、この方が、よりオリジナル舞台のイメージに近いのだろう。
 実は、この日、フェイス・プリンスに代役が立っていたのだが、プリンスのイメージを維持しつつ見事にこなしていたのを観て、改めてブロードウェイの層の厚さを思った。

 最後は、閉幕直前の観劇記(95年 2月発送「ゆけむり通信 Vol.17」)から。

 『ガイズ・アンド・ドールズ』が 1月 8日で幕を閉じた。
 原因は観客動員の問題ではなく、ネイサン・レインの『ローマで起こった奇妙な出来事 A FUNNY THING HAPPENED ON THE WAY TO THE FORUM』がこの劇場で始まる予定になっていたからだ、という話も聞いた(注:そういう噂が当時現地でささやかれた。実際には、この翌年、別の劇場で開幕)。どちらにしても、この素敵なミューシカルが観られなくなるのかと思うと、とても残念だ。
 是非もう 1度、と観に行った舞台は、終わりが近いとは信じられないほどイキがよく、充実していた。
 主役 4人のうち、ミス・アデレイド役ジェニファ・アレン Jennifer Allen(注:前述の 93年 6月 3日の舞台でプリンスの代役として出演していたのが彼女)、ネイサン・デトロイト役ジェフ・ブルックス Jeff Brooks、サラ・ブラウン役キム・クロスビィ Kim Crosby は、オリジナル・キャストの印象を見事に受け継いで安心して楽しめる出来。特にジェフ・ブルックスは、帽子の下に毛がないのを除けばネイサン・レインの双子の兄弟のように見えた(そのせいか、彼は開幕当時からレインの代役だったのだが、レインが降りてジョナサン・ハダリィという全く個性の違う人がデトロイト役になった時には代役から名前が消えていた)。
 残る 1人、スカイ・マスターソン役はマーティン・ヴィドノヴィク Martin Vidnovic。初代のクールなピーター・ギャラガーとも、ナイスガイ的バーク・モーゼズとも違う、渋くて貫禄のあるスカイを演じて印象的。ダンス・シーンでは動きが重いが、歌のうまさは前の 2人より上だと思う。
 長らく代役や脇役を務めていたラリー・カーン Larry Cahn が演じたナイスリー・ナイスリー・ジョンソン(彼の先導で皆が歌う「Sit Down, You're Rockin' The Boat」は最高の見せ場の 1つ)もよかったし、これがブロードウェイ・デビューという、やや泥臭い個性のボブ・アメイラル Bob Amaral のハリー・ザ・ホースも面白かった。
 キャストがどんなに替わろうとも、これだけ質の高い舞台を維持できるのは、やはりブロードウェイの底力、ということだろう。

 余談。
 ウディ・アレン Woody Allen 監督・主演映画『マンハッタン殺人ミステリー THE MANHATTAN MURDER MYSTERY』で、アレンと、その妻役のダイアン・キートン Diane Keaton が、劇場の客席で殺人事件について話すシーンがある。そうこうする内に照明が落ち、序曲が始まり、それでもなお 2人が話し続けるので、隣の席の観客が「シーッ!」と注意するのだが、その劇場こそ、『ガイズ・アンド・ドールズ』をやっていた時のマーティン・ベック劇場。
 機会があったら注意してご覧あれ。

(4/18/2001)

Copyright ©2001 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

previous/next


[HOME]