『シラノ CYRANO The Musical』
1/6/1994
(NEIL SIMON THEATRE, Broadway)


悠々たる失敗作

 驚いた。『シラノ』が翻訳上演されるという。
 1993年 11月 21日に、自国でのヒットを背景にオランダのプロデューサー(Joop Van Den Ende)が自己資金でブロードウェイに持ってきてオープン、悪い批評が出て客足が伸びず、赤字公演となったが、クローズせずにけっこう長く上演し続けて話題になった作品だ。
 当時(94年 2月執筆)の感想は以下に引用した通りだが、周囲の悪評が高かった分、弁護的立場で書いているので、その分、割り引いて読んでいただいた方がいいかもしれない。率直に言えば、豪華で美しいが退屈だった、ということになると思う。

 そんなわけで、僕にとって心に残る作品というわけではないのだが、あまり知られていないと思うので、日本版をご覧になる方の参考になれば、と考えてアップした。

『シラノ』

1/6/1994
NEIL SIMON THEATRE 250 W. 52nd St.

 一際高い鼻で有名なシラノ・ド・ベルジュラック (原作はフランスのエドモン・ロスタン Edmond Rostand が 19世紀末に発表した戯曲) のミュージカル。
 珍しいオランダ産で、主演、演出、製作、セット、衣装、照明、音響等の人たちはオランダから直接やって来て、ニューヨークのスタッフとの協力で作っている。そのせいかどうか、スタイルはオペラ的だが、同じくオペラ的なロンドン産の『オペラ座の怪人 THE PHANTOM OF THE OPERA』やフランス産ロンドン経由の『レ・ミゼラブル LES MISERABLES』と比べると、あざとさと言うか、はったりの要素が少なく、展開もゆったりとした印象。

 驚いたのが照明(Reinier Tweebeeke)の精妙さ。微妙なタイミングで微妙に変化していく照明が、歌に深みを与え、ドラマにアクセントを加える。光の色のバランスも、ある瞬間の絵として絶妙であると同時に、時間的流れの中で見ても見事。決して派手ではないが、渋く、美しい。セット(Paul Gallis)や衣装(Yan Tax)も費用をかけた凝った作りで、照明とあいまった視覚的な部分は申し分ない(余談だが、戦闘最前線のテントの群れのセットが宮本亜門演出『香港ラプソディー』冒頭の天安門のシーンとよく似ていて驚いた)。
 オペラ的と書いたが、楽曲には親しみやすさもあり、時折ユーモラスな演出 (道化的に描かれる驕慢なオペラ歌手、お茶目な尼僧) もあって、納まり返った舞台になっているわけではないし、イギリスの“Fight Director”(Malcolm Ranson)が演出した、時間をたっぷり取った剣戟場面も迫力満点で飽きさせない。

 こうした素晴らしい部分が数多くある、ある意味で完成度の高い舞台であるにもかかわらず、僕は最後までどうしても入り込めなかった。なぜか。
 それは、愛する女のために別の男との間を取り持ってやり、さらにそこから悲劇が生まれるという、古めかしく不合理な話を、ロマンティックで感動的なものに転化してしまうだけの“ノリ”が欠けているからだ。そして、その原因は、やはり台本(Koen Van Dijk)と演出(Eddy Habbema)にあるのだろう。
 もったいない。

 この失敗作、お金がかかっていたことは事実で、上で誉めている照明やセットや衣装のよさは、間違いなく、そのお金の結果だった。それが日本版でどうなるのか。
 とりあえず、告知を見ると、衣装はオリジナルのものを持ってくるということだが、装置はどうするのか。短期の公演だがお金をかけるのか。むしろ、装置的な部分には凝らずに演出の妙で見せる舞台にするのか。
 しかし、演出家はオリジナルのオランダ人がそのまま務めるようだし……。
 さあ、どうなる?

 ――と、なんだか前向きの興味が湧いてこない作品ではありますが、市村正親主演ってことで、チケットは売れるんですかね。たぶん観に行かないと思うので、ご覧になる方がいらしたら、ご感想などお聞かせください。

(10/28/2000)

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