『クレイジー・フォー・ユー CRAZY FOR YOU』
5/29/1992
(SHUBERT THEATRE, Broadway)


ひと目会ったその日から

 『クレイジー・フォー・ユー』について書きたくて、 [MY BACK STAGES] というコーナーを作ったのだが(笑)、最初に書いたもの(Part 1)は、あまり後のことを考えずにウェブサイト正式オープン前に書き始めていたので、その後の観劇記とはちょっと趣の違うものになっている。よって、同作品を最初に観た時の観劇記を、改めて掲載することにした。
 92年 6月発送の「ゆけむり通信 Vol.10」からの転載(一部編集)。

 『クレイジー・フォー・ユー』は、作詞作曲アイラ&ジョージ・ガーシュウィン Ira & George Gershwin 兄弟による 1930年開幕のヒット作『ガール・クレイジー GIRL CRAZY』の改訂版リメイク。
 1930年代という時代設定、主人公がニューヨークから田舎町(アリゾナ州カスターヴィルが新作ではネヴァダ州デッドロックに変更)にやって来てショウを開く、そしてその町の女性と恋に落ちる、といった点を踏襲した話は、新しくなってはいるが基本的にはユーモラスでロマンティックな、典型的なミュージカル・コメディのもの。この新作の“売り”は、そのオールド・ファッションドな枠組みを使って、ガーシュウィン兄弟の名曲と、タップをふんだんに盛り込んだ粋で華やかなダンスを、たっぷり聴かせ、見せるところにある。

 ガーシュウィン兄弟の曲は、元々あった 6曲(「Bidin' My Time」「Embraceable You」「I Got Rhythm」「But Not For Me」等)に、未発表だったりして知られていなかった 4曲、昨シーズンのリヴァイバル公演は討ち死にした 1926年のヒット作『オー,ケイ! OH, KEY!』の「Someone To Watch Over Me」、ジョージ・ガーシュウィン最期の年のフレッド・アステア Fred Astaire 映画 2本(ジンジャー・ロジャース Ginger Rogers との『踊らん哉 SHALL WE DANCE?』及び、ジョージ・バーンズ George Burns、グレイシー・アレン Gracie Allen と組んだ『踊る騎士 A DAMSEL IN DISTRESS』)から 7曲(「They Can't Take That Away From Me」「I Can't Be Bothered Now」「Nice Work If You Can Get It」等)他を加え、質量共に充分すぎるほど。
 タイトルを記したものからもわかる通り、スタンダード・ナンバーとして知られている曲も多数ある。

 そしてダンス。結局このショウはトニー賞のベスト・ミュージカルに輝くのだが、同時に振付でもトニー賞を獲得する。それが充分に納得できる、アイディアに満ちた素晴らしいダンス・ナンバーが次々に登場。
 まず、第 1幕第 1景でいきなり主人公が軽くタップを見せて喜ばせるのだが、続く第 2景が楽しい。
 42丁目の劇場街に車がやって来て停まり、主人公の母親と運転手が乗り込む。主人公はタップを踏みながら歌っている。と、さっきの車のドアが開いて、そこからショウガールが続々と現れ、主人公と一緒にタップを踏み歌い始める!!
 その後、主人公とヒロインのロマンティックなダンス等を挟みながら、第 1幕にはもう 2回、大きな見せ場がある。第 9景の「Slap That Bass」はアステアの映画でもハイライトになっていたビートの効いたナンバーだが、ここではロープを小道具に視覚効果を高めた群舞が見られる。幕間前の第 11景の「I Got Rhythm」も群舞で、波型トタン板等の金物をサウンドの面でも生かしつつダンスに組み入れ、つるはし等をうまく使ってダイナミックな動きを見せる。もちろんタップもたっぷり。
 第 2幕の群舞は第 4景の「Stiff Upper Lip」で。劇場内の集会という設定を生かして椅子を小道具にうまく使っている。
 終幕近い第 2幕第 5景、再び 42丁目、第 1幕第 2景で出てきた幻想のショウガールが現れ、主人公のダンスがあり、第 6景、田舎町に戻り主人公とヒロインの恋が実る。そして一気にフィナーレ。
 このフィナーレが 2段構えで見事。まず、突然豪華で非現実的なレヴューのセットになり、主人公とヒロインが中央の高いステージで、ショウガールたちが周辺のステージで優雅に踊って、一旦幕。幕が上がり観客の拍手を受けつつキャストが勢揃い。普通ならこれで閉幕なのだが、ここでもうひと盛り上がり。なんと全員によるタップが始まる!! このサービス精神!!

 振付のスーザン・ストロマン Susan Stroman は、昨年(注/1991年)夏に観たオフ・ブロードウェイのミュージカル『アンド・ザ・ワールド・ゴーズ・ラウンド AND THE WORLD GOES 'ROUND』の振付でアウター・クリティクス賞を受賞、ドラマ・デスク賞にノミネート。今回は、トニー賞と一緒に、その両方を受賞している。プレイビルによれば、彼女はこれまでブロードウェイ以外の数多くのプロダクションで、振付以外に、演出も手がけているという。フランク・リッチ Frank Rich(注/当時のニューヨーク・タイムズ劇評担当)は、彼女は [トミー・テューン Tommy Tune 以降で、ブロードウェイにやって来た最も想像力に富む新しい振付家] と絶賛し、 [アメリカのレパートリーの中で最も親しまれ愛されている歌を、まるで昨日作られたもののように、聴かせ、見せてくれる] と書いている。
 演出のマイク・オクレント Mike Ockrent は、 1986- 87年のシーズンにロンドンからブロードウェイにやって来た『ミー・アンド・マイ・ガール ME AND MY GIRL』の、ロンドンとブロードウェイ両方での演出家。ブロードウェイ版を 89年に見たが、『クレイジー・フォー・ユー』に色合いのよく似たミュージカル・コメディだった。
 テンポのいい脚本はケン・ラドウィグ Ken Ludwig。
 衣装のウィリアム・アイヴィ・ロング William Ivey Long は、 30年代のショウの華やかさと田舎ののどかさを粋に表現して、トニー賞を受賞。
 出演者も達者で、特に主演のハリー・グローナー Harry Groener は演技もダンスも軽快。ヒロインのジョディ・ベンソン Jodi Benson はディズニーのアニメーション映画『リトル・マーメイド LITTLE MERMAID』(音楽が素敵!)の主役の声を担当していた人。脇役だが、マンハッタン・リズム・キングズ The Manhattan Rhythm Kings という、ジャグ・バンド的演奏をし、コーラスを聴かせる 3人組がいて、音楽的なふくらみを与えていた。
 トニー賞に相応しい、これぞブロードウェイ・ミュージカルという一作。

 余談だが、『ガール・クレイジー』(後の映画版ではなくオリジナル舞台版)は、出演者に、エセル・マーマン Ethel Merman (ブロードウェイ・デビュー)、ジンジャー・ロジャース Ginger Rogers(初の大役)、演奏者に、まだ無名のグレン・ミラー Glenn Miller やベニー・グッドマン Benny Goodman らが在籍したレッド・ニコルズ楽団 Red Nichols Orchestra の名がある、今考えれば超豪華版。このショウでのエセル・マーマンのデビューはセンセーショナルだったらしい。
 [彼女が歌った一曲目は「サム・アンド・デリラ SAM AND DELILAH」(注/『クレイジー・フォー・ユー』では使われていない)であり、観客はこれで総立ちになったが、彼女が「アイ・ゴット・リズム」を歌い始めると、ミュージカルの一番華やかな部分を探しても例を見ないような大混乱となった。劇場のシャンデリア――もちろん、よその劇場のシャンデリア――が落下してしまうのではないかと心配になるほど強力な声の持ち主がいるとすれば、それがこのエセル・マーマンだった。あるときアーヴィング・バーリンは私にこう言ったことがある――「エセル・マーマンのために歌詞を書くのだったら、出来がよくないとね。みんなに聞こえてしまうわけだから。」その晩、批評家はロジェの大辞典をひっくり返して、いまだ手つかずの最上級の表現を探す羽目になった]
 というのが、アラン・ジェイ・ラーナー Alan Jay Lerner(訳/千葉文夫・星優子・梅本淳子)「ミュージカル物語」(筑摩書房)中の記述だ(引用文中の曲名表記はママ)。

 ストーリーについては、 Part 1 をご覧ください。

(12/30/2003)


Copyright ©2003 MIZUGUCHI‘Misoppa’Masahiro

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