[ゆけむり通信Vol.33]

3/18/1999
『サタデー・ナイト・フィーバー SATURDAY NIGHT FEVER』


客席から熱波

 [ゆけむり通信Vol.33 INDEX] に [たぶんブロードウェイ入りは目指していない] と書いた予想が大外れ。とにもかくにも大西洋を渡って、ある意味では“帰郷”を果たすことになった『サタデー・ナイト・フィーバー』(映画版邦題表記)舞台版。
 元はもちろん、すっかり復活したジョン・トラヴォルタ John Travolta の出世作でもある 77年のアメリカ製映画。若い世代の方たちのために念のために申し上げれば、日本に空前のディスコ・ブームと「フィーバー」という言葉をもたらしたのが、この映画だ(正確に言えば、それ以前にも、「フィーバー」という語は楽曲タイトルとして洋楽好きには知られていたが、新聞の見出しにまで使われるようになったのは、映画『サタデー・ナイト・フィーバー』のヒット以降)。
 この映画、スタンリー・グリーン Stanley Green の「ハリウッド・ミュージカル映画のすべて HOLLYWOOD MUSICALS YEAR BY YEAR」(音楽之友社)で紹介されているが、登場人物が歌わないという点において従来のミュージカル映画とは一線を画する(登場人物が、歌わずに、バック流れる楽曲に乗って踊るというスタイルは、後に『フラッシュダンス FLASHDANCE』『フットルース FOOTLOOSE』等に引き継がれていく。新たなダンス映画の嚆矢でもあったわけだ)。
 日本公開は翌 78年で、封切りで観たが、ディスコ・ミュージックというお気軽なイメージとは裏腹に、中身がニューヨークを舞台にしたほろ苦い青春のドラマだったのが意外だった。

 さて、『サタデー・ナイト・フィーバー』舞台版。
 [たぶんブロードウェイ入りは目指していない] と書いたのは、いかにもロンドンで受けそうな作品だったからで、こちらにも書いた通り、特徴は“コンサート的なノリ”。観客もまた、それを期待していることが、開演早々にわかる。
 往年のヒットソングのオンパレードとも言うべき序曲が流れ始めるだけで客席が湧くのだが、その興奮が、主人公の登場で早くも最初のピークを迎えるのだ。こんな風に。

 舞台上には摩天楼を思わせるセット。オーケストラの演奏する序曲に合わせて変化する照明。熱くなった観客は、今にも歌いだしそう。いや何人かは確実に歌っている(笑)。そして序曲はエンディングに向けて盛り上がっていき……終わった瞬間、中央の巨大なビルのセットが突然真っ二つに割れる。
 そこに立っているのが、赤いシャツの幅広エリを白いスーツの上に出して着ている主人公。もちろんポーズは、人差し指を突き立てた右腕を天に向けて伸ばし、腰を微妙に左にひねった“例の”やつ。
 キャーッ!!(客席から湧き起こる悲鳴のような歓声)
 それを合図にキャストがワッと舞台に出てきて、いきなり「Stayin' Alive」の大饗宴になる。そしてナンバーの締めでは、踊りまくった役者たちが、主人公を中央に舞台最前列に横 1列に並び、下手側から上手に向かって、次々に“例の”ポーズをキメていく。
 再び、キャーッ!!

 表現の深みや芸術性の高さは求めず、そういう娯楽作品なんだと割り切ることが出来れば、まずは楽しんで観ていられる。それが『サタデー・ナイト・フィーバー』舞台版。
 というわけで、この手の“ロンドンもの”に対する免疫の出来てきた僕としては、多大な期待を抱かずに観て、それなりに楽しんだ。みなさんも、観る時は“お祭気分”でどうぞ。

 ストーリーは映画とほとんど同じ。
 ブルックリンに両親と妹と一緒に住むイタリア系の青年トニーは、小さな商店に雇われて地道に働いているが、土曜の夜だけはパリッとした服に着替えて、仲間と一緒に地元のディスコ“2001オディッセイ”に出かけていく。そこで、息苦しい家庭や退屈な仕事を忘れて、誰にも負けないダンスをすることだけが彼の生き甲斐なのだ。
 ガールフレンドのアネットをパートナーに、次のコンテストも優勝を狙うトニーだったが、ある日、ステファニーというダンスのうまい娘と出会い、強引にパートナーにしてしまう。ところが、ステファニーはマンハッタンに住む上昇志向の強い人間で、ブルックリンで“ジモティ”として生きるトニーとは波長が合わない。
 それでも、なんとか壁を乗り越えてコンテストに漕ぎ着けた 2人は見事なダンスを披露、ライヴァルのプエルトリカン・カップルを抑えて優勝する。しかし、トニーの目には(観客の目にも)明らかに身びいきの判定に見え、「勝ったのは君たちだ」と、賞金をライヴァルに譲ってしまう。
 その夜遅く、ヤケになったトニーは、ステファニーと組んで以来なんとなく疎遠になっていた仲間たちと、いつものようにヴェラザノ橋(ブルックリンとスタッテン島とを結ぶ橋。映画を観た頃、僕はてっきりブルックリン橋だと思っていた)で悪ふざけしていたが、仲間の 1人が川に落ちて死ぬのを見て、深い喪失感を味わう。
 橋のたもとのベンチで 1人打ちひしがれるトニーに、そっと寄り添ってくれたのは、どこからともなく現れたステファニーだった。

 見どころは、やはりディスコでのダンス・シーンということになるだろう(下手にバー、上手のやや高いところに DJ ブース、上には中央にミラーボールが組み込まれた天井、というセットが巨大なディスコを現出させるが、金がかかっているに違いないのにチープに見えるのは、あの時代の気分を再現しているからか)。
 しかし、この作品のダンスは全体に、キメのポーズはくっきりしているが、それ以外は特筆すべきものではない。言い方を変えると、派手だがアイディアに乏しい(演出・振付/アーリーン・フィリップス Arlene Phillips)。とは言え、コンテスト場面でのライヴァル・カップル(ダリン・クロスビー Daryn Crosbie、ララ・コスタ Lara Costa)のダンスは、映画同様ダイナミックで迫力があった。

 主演のアダム・ガルシア Adam Garcia はオーストラリア出身で、経歴を見ると、『タップ・ドッグズ TAP DOGS』を作ったタップ・カンパニーの創設メンバーだったらしい。そんなわけで、フェロモンの多さではトラヴォルタにかなわないものの、精悍な魅力があり、ダンスのキレはいい。
 もっとも、それ以前にイギリスでは、 TV ドラマの人気者として知られているらしく、それが登場シーンの叫声につながるわけで、シャツを着替えるシーンで上半身裸になっても歓声が起こるあたりは、まさにアイドルのノリ。しかし、ほとんど出ずっぱりで熱演するガルシアの魅力は大きく、彼が降りた後の舞台がどうなったか、興味のあるところではある。

 そして、ブロードウェイ公演のトニー役は?

 誰が主演するにしろ、この作品、海を渡ってニューヨークの批評家たちを相手にしてしまっては、苦戦を強いられること必至だと僕は思うのだが、さて、吉と出るか凶と出るか。

(8/16/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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