[ゆけむり通信Vol.33]

3/16/1999
『キャッツ CATS』


解けたヴィデオ版の謎

 ようやくわかった。たぶん。
 ヴィデオ版『キャッツ』最大の謎が。

 ところで、『キャッツ』って、みんなどこで体験してるんだろう? 僕の推測では、次の順に多いのではないかと思う。

 1) 日本(劇団四季)
 2) ブロードウェイ
 3) ウェストエンド

 2番目と 3番目の順位はちょっと確信ないが、ま、いいや。知りたいのは、 1) 、 2) 、 3) をどのくらいダブって観ているか、ということ。『キャッツ』は、『レ・ミゼラブル LES MISERABLE』『オペラ座の怪人 THE PHANTOM OF THE OPERA』ほど追いかけるファンがいない気がするから、案外 1か所という人が多いんじゃないのかなあ。アンケート採ってみようかなあ。

 で、違うんですねえ、これが。やっと観ることの出来た“本場”ウェストエンドの『キャッツ』はブロードウェイ版とけっこう違う。その違いに、ヴィデオ版『キャッツ』の謎が隠されていた、というのが今回の本題。
 両方観たことのある人には「何を今さら」な話だが、実はブロードウェイ版には、ウェストエンド版しか観たことがない人に「You ain't seen nothin' yet!」と言いたくなるほど規模の大きいセットが登場するのだ。

 劇場のサイズが違う(ウェストエンドの方がやや小さい)。劇場の雰囲気も違う(ウェストエンドは体育館ぽい)。ウェストエンドはステージ上にも客席があり、開演前にその客席共々ステージが半回転する(これは僕の観た品川での日本版も同じ)。
 ――など、始まる前からいろいろと違いはあるが、最大の違いはヴィデオ版の問題の箇所、第 2幕の Gus the Theatre Cat の回想シーン。

 ヴィデオ版についてのリポートで、僕はこう書いた。

 [問題は、 Gus the Theatre Cat。
 (中略)Gus がメインになるシークエンスに出てくる回想の活劇シーンがなくなっているのに驚いた。
 活劇シーン――役者猫 Gus が栄光の日々を思い出して演じる海賊物語。(中略)このシーン、第 2幕最大の見せ場(時間的にもいちばん長いと思う)であるにもかかわらず、この映像版からは削られている。あの大がかりな船のセットにかかる経費を嫌ったのだろうか。
 それでもこの映像版を作ったロイド・ウェバーの真意は何?]

 “あの大がかりな船のセット”――あの時点では何気なく書いたが、これ、実はウェストエンド版しか観てない人には何のことだかわからない事柄だった。ウェストエンドの劇場には、あのセットが“ない”のだ。
 そこから導き出したヴィデオ版の“活劇シーン”カットの真相。
 「ロイド・ウェバーは、ウェストエンド版とブロードウェイ版の規模の違いを、出来れば知られたくないと思った」
 どうだろう、この推理。

 問題のシーン、具体的にセットがどう違うかと言うと――。

 ウェストエンド版=ステージ床に船の形で埋め込まれたライトが灯り、それを船に見立てる。
 ブロードウェイ版=手前に傾斜した舞台奥の壁の一部が、タラップ状にステージに向かって大きく開きながら下りてくると、そこがリアルな大型船の甲板のセットになっている。

 ウェストエンド版しか観てない人、驚きました?
 雲泥の差と言っても言いすぎではない気がする、このセットの違い。実際に両方の劇場に足を運んで、ああ違うんだ、と体験する分にはあまり問題ないと思う(実感として)。でも、ヴィデオで観て「自分が劇場で観たのとまるで違う!」と思うと、ちょっと釈然としないんじゃないだろうか。
 ウェストエンド版を観た人がヴィデオでブロードウェイ版規模のセットを観て「だまされてた!」的感情を抱くのはもちろんだが、逆に、ブロードウェイ版を観た人がヴィデオでウェストエンド版のセットを観た場合でも、「なんでこんなショボいんだ? 手抜きだ!」という否定的意見を持つことが充分考えられる。でしょ?
 そこで悩んだアンドリュー・ロイド・ウェバー Andrew Lloyd Webber は、「うーん……このシーン、カット!」と言った。これが真相(笑)。

 僕は、この手作り感の残る“本場”の『キャッツ』、実は嫌いじゃない。“問題の”活劇シーンも、観客が想像力をかき立てる余地があると考えれば、むしろ好ましいとも思える。やはり、ここが出発点だけに、新しい面白い舞台を作ろうとした空気が、今でも漂っているように感じられるのだ。
 それに、猫たちのしゃべるイギリス的猫語も、ほの暗い小宇宙にピッタリ来る感じがするし。味があって、いい。

 ところで、ヴィデオ版でもう 1つ謎として採り上げた、登場猫の名前の問題だが、ヴィデオと違って、ブロードウェイ同様ここでも Gus は Asparagus のことで、同一猫だった。しかし、役名の違いは複雑で、ウェストエンド版は、ブロードウェイ版ともヴィデオ版とも微妙に違っている。
 この問題、誰か研究してないのかなあ。

 とにかく、ロンドンに行ったら、火曜の昼は『キャッツ』を観よう。

『シカゴ CHICAGO』でヴェルマの言うセリフだが、映画『ジャズ・シンガー THE JAZZ SINGER』で有名な「You ain't heard nothin' yet!(お楽しみはこれからだ)」同様、ヴォードヴィル役者の常套句だったんじゃないだろうか。

(4/1/1999)


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(4/2/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

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