[ゆけむり通信Vol.33]

3/15/1999
『けだもの組合 ANIMAL CRACKERS』


マルクス兄弟そっくりショウ

 マルクス兄弟の、最後(3本目)のブロードウェイ舞台(1928年)にして 2本目の映画化(1930年)作品『けだもの組合』のリヴァイヴァル。
 舞台でも映画でも前作となる『ココナッツ THE COCOANUTS』の楽曲がアーヴィング・バーリン Irving Berlin の手になるのは有名だが、こちらはバート・カルマー Bert Kalmar とハリー・ルビー Harry Ruby の共作。脚本は前作同様、ジョージ・S・カウフマン George S.Kaufman とモリー・リスキンド Morrie Ryskind。
 その『ココナッツ』の(確か 97-98年の)ニューヨークでのリヴァイヴァルを見逃していたので、この公演はうれしかった。

 興味は 2つ。
 1) 生でマルクス兄弟(の“そっくりさん”)を観てみたい。
 2) マルクス兄弟のミュージカル・コメディ舞台版がどんなものだったか、気分だけでも知りたい。

 早い話、マルクス兄弟の作品はマルクス兄弟だから面白いわけで、新たな解釈で他の誰かが演じることの出来る通常の作品のリヴァイヴァルとは、本質的に異なる。つまり、どこまで行っても“そっくりショウ”ではあるわけだ。
 ヴァーチャルなマルクス兄弟体験、という変則的な観劇。
 だから、全ては 1) の部分にかかっている。

 (ここまで書いて気づいたけど、今回の話、マルクス兄弟を知らない人にはまるでわかんない話ですね。ま、いっか(笑)。このまま進めます。これを機会にヴィデオでご覧になってください)

 で、 1) について結論から言うと、かなり満足させられた。

 似ている。特にハーポ。
 登場するなり、コートからフォークやナイフをジャラジャラ落とす。それも、まだ出るの? という感じで際限なく。
 自分の足を他人に抱えさせる“クセ”も、実に素早く、しつこい。盗みの技も同様。
 女の子を追いかけ回す時の、ちょっとキレてる笑顔も、演技とは思えないくらいで、少し怖い。
 ハープ演奏の代わりにノコギリ演奏を披露するが、これはご愛敬といった程度。
 こちらの言語能力の問題もあって、ハーポがいちばんわかりやすいということもあるが、なりきりの度合いが最も高く、凄みがあった。

 グルーチョ(グラウチョ)とチコもよく似ているが、時折、役者の素の顔が出ることがあった。
 と言うのも、客の反応を見ながら、この 2人(特にグルーチョ)はアドリブを繰り出す。そうすると、基本的にしゃべり芸だから、脚本にない部分はどうしても“地”が出るわけ。
 しかし、こういう芸の人たちは、過激なぐらいに客をいじる。デヴィッド・シャイナー David Shiner とビル・アーウィン Bill Irwin の『フール・ムーン FOOL MOON』(93年)を観た時にも思ったが、客も承知しているから、としか言いようのないほどの“乱行”を客席にまで入り込んで、しつこくやる。
 そういう芸風には、ロンドンの小振りな劇場は、似合っていると言えなくもない。

 さて、興味の 2) だが、こちらに関しては、フロア・ショウのようなすっきりした一杯セットで演じられるので、オリジナル舞台の気分とはずいぶん違うのではないかという気がした。
 それでも、アンサンブルの役者たちが何度も見せるスラップスティックな動きには、ヴォードヴィルの香りが漂っていた。ただし、舞台の本質的な性質上、どうしても“再現”というニュアンスがつきまとってはいたが。

 最後に、ミュージカルとしてどうだったかと言えば、うーんこんなもんかな、というところ。
 結局、マルクス兄弟(しつこいが、の“そっくりさん”)の芸を見せる舞台であって、構造としては、その一部としてミュージカル場面がある。つまり、コメディ>ミュージカル、なので、ミュージカルとして特にどうこうというアイディアがあるわけではない。しかも再現だし。 4人組のバンドの音も、ちょっとショボかった。
 笑えて楽しいという点では、もちろん OK なのだが。

 なお、ホンモノがやった舞台・映画には、もう 1人の兄弟ゼッポも登場していて、この舞台にもその役はあるのだが、おそらく、そっくりにしても意味がないからだろう、プログラムの“The Brothers”の項には加えられていない。

 グルーチョ=ベン・キートン Ben Keaton、チコ=ジョゼフ・アレッジ Joseph Alessi、ハーポ=トビー・セグウィック Toby Sedgwick。

(3/27/1999)

Copyright ©1999 Masahiro‘Misoppa’ Mizuguchi

[ゆけむり通信Vol.33 INDEX]


[HOME]