[ゆけむり通信Vol.23]

12/18/1996
『ナイン NINE』

伊映画の米ミュージカル化作品の英上演を観る

 資料によれば、フェリーニの映画『8 1/2』('63年)をミュージカル化しようと考えたのは作曲・作詞のモーリー・イェストン Maury Yeston らしい。
 演出・振付をトミー・テューン Tommy Tune が担当(振付はトミー・ウォルシュ Thommie Walsh と共同)、台本をアーサー・コピット Arthur Kopit が書いた『ナイン』は、 81- 82年シーズンのトニー賞で作品、スコア(作曲・作詞)、演出など5部門を受賞している。
 『8 1/2』のミュージカル化、いったいどんな作品だったんだろう――ずっと心に引っかかっていただけに、このリヴァイヴァルはうれしかった。

 場所は『キャバレーCABARET』『カンパニーCOMPANY』などの斬新なリヴァイヴァル上演で最近評判の倉庫劇場。
 バレーボールのコート半分ほどのステージをコの字型に囲む数列しかない客席が 1、 2階に重なるようにしてあるだけの小さな劇場だが、今回の舞台も(と言ってもこれまでの作品は観ていないが)刺激的に仕上がっていた。

 映画監督グイド・コンティーニは新作の構想を練ると称してウィーン(→正しくはヴェネチア 5/23/2003記)の温泉地に来ているが一向にアイディアが浮かばない。どころか、このところヒット作がまるで作れず、プロデューサーの女性からは厳しいプレッシャーを与えられている。
 私生活では妻とも愛人ともうまくいかず、女と見れば粉をかけるものの心は満たされない。そして、彼の心にはいつも、子供の頃の女性たちの思い出がよみがえってくる。
 そんな女たちにからめ取られた現実から逃れるように、思いつくままにカサノヴァの映画を撮り始めるが、その過程で女性たちとの関係が浮き彫りにされ、映画は破綻。
 しかし、グイドはようやく自分を取り戻すのだった。

 というような話だと思います。
 主人公をめぐる話でありながら、主人公がどこか狂言回し的であるところなど、『カンパニー』に似ている印象を受けたが、こうした素材を独りよがりでないエンタテインメントにしてしまうアメリカン・ミュージカルの底力には驚かされる。
 それを、こうした良質の舞台としてリヴァイヴァルさせたこのカンパニーも、ただ者ではない。

 まずは装置(アンソニー・ワード Anthony Ward)。
 最初に目に付くのが、奥から舞台に覆い被さるように 45度の角度で手前に傾いで吊り下げられている大きな鏡。所々に薄くサビが浮いている。
 実はこれが半透明で、奥を明るくすると向こうに、天井にまで連なるコンクリートの壁と、そこをはい昇っていく鉄製の階段が見える。 2階席の前には、これまた鉄製の回廊が巡らせてあり、舞台奥でその階段とつながっているし、舞台に降りてこられる階段も隅に付いている。
 舞台中央には大きな丸テーブルがあり、白く塗られた鉄製のイスが十数脚用意されている。

 こうした限られた装置を駆使して、舞台が、ホテルの部屋になり、駅になり、教会になり、運河になる(舞台一面に水が満たされる!)。
 背景を変えることなく次々に場面を変えていく、その豊かな想像力が素晴らしい。

 多彩な照明(ポール・ピアント Paul Pyant)のアイディアがそれを助ける。
 固定されたものの他に、テレビの取材を模して手持ちのライトで役者を追ったり、ロウソクや燭台を役者に持たせたりして、生々しい効果を生み出す。

 生々しいと言えば 14人の女優たち(オリジナルの舞台では 21人だったらしい)。
 主人公とその少年時代の 2人の男優以外は全員女、というのがこの作品の特徴の 1つなのだが、彼女たちが実に個性豊か。そして、間近に観るせいもあって肉感的。
 全編を通じて際だったダンス場面というのはないのだが、彼女たちの動きそのものがダンス的で、官能的。それがこの舞台の最大の魅力と言えなくもない。

 そんな女優陣の中でも一番印象に残ったのが、若い女優たちを従えてキャバレー・レヴュー風の歌を迫力いっぱいに歌ったフランス人プロデューサー役のサラ・ケステルマン Sara Kestelman。
 年季の入ったパフォーマンスは凄みすら感じさせ、シビレた。

 楽曲は、見方によってはパロディともとれそうなほど多彩で、そのキャバレー・レヴュー風やミシェル・ルグラン風、もっとオーソドックスなシャンソン風といったフランス風味から、カンツォーネ、オペラといったスパゲッティ風味までいろいろ。
 そのどれもが味わい深く、さすがに作曲・作詞者の情熱で作られた作品らしい充実ぶりだ。

 グイド役のラリー・ラム Larry Lamb が、柄はピッタリだがやや声量不足だったのが、ほとんど唯一の難点だったかもしれない。
 手際のいい視覚的に優れた演出はデイヴィッド・レヴォー David Leveaux。

 このミュージカルを観た翌日、『8 1/2』の主演男優マルチェロ・マストロヤンニが亡くなったのを知ったのは、まあ、ただの偶然です、ね。

(before 5/1/1997)


 ブロードウェイでのリヴァイヴァルの観劇記を書くにあたって読み直したら誤りに気づいたので、カッコ内に訂正を入れた。
 ウィーンとヴェネチア、個人的によく勘違いして書き間違えるのであります(笑)。

(5/23/2003)

次の『ナイン』観劇記はこちら

Copyright ©1997 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

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