劇場通いを止めるのはもはや死ぬときだ!


災い転じて福となす、ってか

〜キャンセル待ちの日々〜

 今年で 3回目を数える“ニューヨーク・ミュージカル・シアター・フェスティヴァル NEW YORK MUSICAL THEATRE FESTIVAL(NYMF)”は、約 1か月にわたり、もっぱらミッドタウン付近のいくつかの小劇場を使って行なわれる、ミュージカルのショウケース。今やオフ・ブロードウェイからも消えつつあるチャレンジ精神にあふれた舞台が目白押しで、実に刺激的だ。しかも、料金が無料(!)〜 $20と安いのも素晴らしい。
 しかしながら、演目が多いので(NYMFの公式パンフによれば“new musicals”は 34本だが、これに“reading”と呼ばれるコンサート形式の試演も加わるので、実際には 40本を超えると思われる。僕の滞在した 1週間だけでも、その内の 30本近くが上演されていた)、もちろん観きれない。したがって選択が必要になるのだが、そもそも情報が少ない上に、上演スケジュールの一部が直前まで流動的だったこともあって、事前予約は 2本だけに留めてニューヨークに飛んだ。

 で、到着日(月)。
 買ったタイムアウト誌をチェックして、まずは、 NYMFとは関係のない週末までの限定公演『セヴン・ギターズ SEVEN GUITARS』のチケットを買うことにしたのだが、劇場に行ってみると、その日のみならず全公演ソールドアウト。キャンセル待ちの列が出来ている。ってことは面白い可能性が高いと思い、急遽チャレンジすることにして 14〜 15人目ながらキャンセル待ちの列に並ぶ。
 これが戦慄のキャンセル待ちの日々の始まりだとは、その時点では知る由もない。
 さて、この公演、開演の 8時を迎えたが、僕の 3〜 4人前まででキャンセル待ちのチケットはなくなり、アウト。すぐに、そもそも観るつもりだった 5ブロック離れたフェスティヴァルの劇場の 1つに走り、オープニングを観逃したものの、なんとか滑り込むことが出来て、ホッとひと息ついた。

 2日目(火)。
 まずは、上演予定演目が 1本もないはずだったその日の午後イチに、翌日夕方の予約を取っていた『ホワイト・ノイズ WHITE NOISE』の上演がその後追加されていたので、予約時間の変更を頼みに劇場へ。空白だったこの午後イチのコマに移動出来れば、その分、もう 1本余計に観られるからだ。これが窓口であっさり承諾されたので、これはツイてる、と、先の混乱も知らずにほくそ笑む。
 公演後は、前日の雪辱戦とばかりに『セヴン・ギターズ』の劇場へ。と言うのも、火曜の『セヴン・ギターズ』は、通常 8時からの夜公演が例外的に 7時からなので、もしキャンセル待ちがダメでも他の劇場の 8時からの公演に間に合う、という算段があったからだ。ただし、そのために、この日の NYMF関係の夕方公演は諦めた。夕方公演を観てから駆けつけたのでは、前日の二の舞になることは明らかだった。
 結果から言えば、『セヴン・ギターズ』は無事に観られた。それでも、開演 3時間以上前に行ったのにキャンセル待ちの列は出来ていて、僕は 4人目。驚いた。参考までに書いておくと、開演 1時間ぐらい前にスタッフが出てきて、並んでいる人たちの名前を順に書き取ってくれ(同時に上限 2枚で必要チケット枚数も訊く)、そこで列は解散。開演 10分前までに戻ってきてくれ、と言われる。で、開演直前に、割り当てチケットのある分だけ名前を呼ばれるわけだ。どこまで普遍性があるのかわからないが、こういうやり方の劇場もある、ということで。
 ちなみに、先回りして言うと、 NYMFの場合は、窓口で名前を告げて“waiting list”に書いてもらう方式だった。

 波瀾の 3日目(水)。
 前日同様、予約していた演目の時間変更に。この日の午後イチ公演を予約していた『デスペレイト・メジャーズ DESPERATE MEASURES』を、『ホワイト・ノイズ』を予約していた夕方(午後 4時半)に移行させると、午後イチに別の観たい演目を入れられるからだ。で、これも前日同様すんなり OKになり、午後イチの別の公演のチケットも獲れた。ここまでは非常に順調だった。
 午後イチの公演を観た後、夕方公演まで時間が 1時間半ほどあったので、宿泊先に戻って仮眠を取ることにした。これが失敗だった。宿泊先が劇場に近いので油断もしていたのだが、まあ時差ボケのピークでもあったのだろう。ここで、観劇史上 3度目の寝過ごし事件が起こる。
 寝過ごしたと言っても 10分は過ぎていなかったので、とにかく劇場へ急いだ。しかしながら、これがアウト。開演から 10分過ぎると、人気演目のチケットはキャンセル待ちの人たちに回されてしまうのだ。
 1席も余っていないのか、と訊くが、ソーリーという答え。「でもね」と窓口のお姉ちゃん――あ、いや、若い女性、「他の日でよければ、そっちに移してあげられるわよ」と言ってくれる。優しい。こちらの都合で時間を移してもらった予約を、さらに変更してくれるなんて。早速、持ち歩いている予定表を出して、移行処理をしてもらう。ホントにありがとう。
 さらに福音。予定表を見て、その日 5時からの公演が 1本あることに気づいた。しかも、すぐ近くの劇場。間に合う。走った。
 しかしながら……。その公演、『スモーキング・ブルームバーグ SMOKING BLOOMBERG』も人気なようで、キャンセル待ちに。“waiting list”に載せてもらうが、 5〜 6人目だ。劇場が小さいし無理かも、と、その時点で半ば諦めた通り、開演時間を過ぎた頃に、「申し訳ありませんがキャンセル待ちチケットは出ません」という窓口からのアナウンス。じゃあ、『スモーキング・ブルームバーグ』の別の日の公演を予約しておこうと、窓口の(こちらも)若い女性に訊くが、どうやら、今のところ全公演ソールドアウトらしい。
 がっかりしていると、「この劇場で上演される演目じゃなくても予約出来るわよ」と、窓口の彼女が他の演目の予約を促してくれる。
 「たくさんあるんだけど」
 「今なら時間があるから大丈夫。どうぞ」
 じゃあ、と調べてもらったのが、その日の夜の『ウォーレンバーグ WALLENBERG』。これ、理由は不明ながら、オンラインではチケットを買うページへのリンクが載っていないいくつかの演目の 1つだったのだ。
 「これ、無料公演ね。あれ? えっと、今予約入れられないみたいなんで、直接劇場に行ってもらえますか」
 ……とかってやってると別のスタッフがやって来て、彼女に何か言う。と、彼女、こちらを向いてニッコリしながら、「1つ席が空いたんで、どうぞ」と『スモーキング・ブルームバーグ』のチケットを差し出す。「エッ!? これ、いいの?」「急いで!」
 そんなわけで、これまたオープニングを見逃したものの、幸運なことに人気演目が 1本観られた。
 逆にだ、と、ここで考えた。『デスペレイト・メジャーズ』の寝過ごしがなければ『スモーキング・ブルームバーグ』をすんなり観ることも出来なかったかもしれない。それも、 10分遅れという絶妙の寝過ごしでなければ、前者が観られず後者に間に合う、という段取りにはならなかった。これって、やっぱりツイてるのか。
 実は、その時思った以上に、その寝過ごしが幸運をもたらしてくれたことが、後でわかった。伏線は『スモーキング・ブルームバーグ』『ウォーレンバーグ』、両“バーグ”予約の窓口でのやりとりにあったのだ。
 その夜の『ウォーレンバーグ』については、結論だけ言うと、無事に観られた。ただし、こちらもキャンセル待ち。無料だった理由は“reading”だったからで、「ああ、そういうことなのか」と納得。キャンセル待ちの人数がけっこう多かったにもかかわらず入れたのは、キャンセル待ちのための席をメザニン(2階席)に用意出来る規模の劇場だったからのようだ。

 4日目(木)。
 この日は、観ようと思っている 1時と 3時の公演がどちらも無料。なので、昨夜の体験からしてキャンセル待ちになるだろうと思い、早めに劇場に向かう。 1時からの公演は席に余裕があったらしく、すんなり入れた。こちらは予想通りの“reading”だった。
 ところが、 3時からの『エンジェルズ ANGELS』は、なんだか雰囲気が違う。そもそも上演されるデュークという劇場が 42丁目の目抜き通りにある新しいビル内にあり、設備も近代的。それに、ここでは NYMFの他の演目は上演されない。言ってみれば特別参加作品のようなもので、客層も金持ち臭い。まさにエンジェルズ(投資家)・オーディションの様相。それも大手代理店が仕切っているような。
 そんなわけで、個人的には場違いな感情を抱きながら窓口の列に並んだのだが、ここでも幸運の女神が微笑んでくれた。窓口で「予約してないんだけど」と告げ、窓口の人が「申し訳ありませんが、予約でいっぱいなんで……」と答え終わる前に、背後からエンジェルならぬ女神の声。「大丈夫よ。私たちのが 1枚余るから」
 振り返れば、豹柄のドレスを着たゴージャスな女性。文字通り幸運の女神。その場で「ありがとうごぜえますだ! ヘヘーッ!」と平伏したのは言うまでもない。
 この『エンジェルズ』が前半最後のハードルだった。滞在中日のこの頃には、かなりフェスティヴァルの様子も見えてきていて、緊急のものはオンラインで予約し(翌金曜夜の『グーテンベルク! GUTENBERG! The Musical!』は最後の 1枚をゲット。残数が 10枚以下になると枚数指定の欄の数が実数以内しか表示しなくなるのだ)、窓口で予約出来るものは予約していた(オンラインだと手数料を取られるので、なるべくなら窓口で予約したいのは人情でしょ?)。しかし、難物が 1つ残っていた。ぜひとも観たいと思っていた土曜夕方の『戦士 WARRIOR』がそれ。オンラインでソールドアウトがわかっていたのだ。

 では最後に、『戦士』のチケット獲得までのいきさつを(獲れたのかよ!)。
 木曜の夜の公演を観た後、宿泊先に戻る途中、『スモーキング・ブルームバーグ』を観た劇場前を通るとドアが開いている。あの時の窓口の彼女がいて、 2人連れの若い女性と話していた。入っていくと気づいてくれたので、訊いてみた。
 「土曜日の『戦士』はソールドアウトなんですか?」
 えーっと、と調べてくれようとすると、さっき彼女と話していた 2人連れの女性の 1人が、「ソールドアウトね。でも、余りが出るから私が押さえてあげる」
 「エーッ! ホントに?」「大丈夫!」「明日どうすればいい?」「開演1時間前、 4時にここに来て。私か彼女(と連れを指す)が必ずいるから」
 その時は、彼女たちも窓口係なんだと思っていた。土曜日の担当なんだと。
 で、 6日目(土)。用心深く 3時 45分には劇場に着いた。窓口は開いていないが、すでにキャンセル待ちを申し込もうとしているらしい人もチラホラいる。空いた椅子に座って待っていると、一昨日の 2人連れが入ってきて、明らかに予約していそうな家族連れとあいさつをし始めた。その話の内容から、どうやら僕のチケット獲得を請け合ってくれた方の女性は『戦士』のプロデューサーらしいことがわかった。道理で「大丈夫!」なわけだ。
 話の終わるのを見極めて声をかけた。「僕を覚えてますか?」「もちろん」
 彼女が裏に回ると、窓口が一瞬開いて、いつもの窓口の彼女が顔を出す。僕を見つけて、「“waiting list”に載せるわよね」と確認すると、すぐに窓口が閉まった。まだ窓口の開く 4時になっていなかったのだ。これぞプロデューサーの力。他のキャンセル待ちの人には申し訳ないが、ホッとした。
 観劇後、ロビーにいた彼女たちに深く感謝したのは言うまでもない。

 さて、いかがだったでしょうか、わがキャンセル待ちの日々。災い転じて福となす、ってか、のひと幕でした。

(9/26/2006)

Copyright ©2006 MIZUGUCHI‘Misoppa’Masahiro

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