【1】

初のオリジナル・ミュージカルに挑む

〜『葉っぱのフレディ』の作曲家、島健さんに訊く〜

 8月 17日から東京グローブ座で幕を開けるオリジナル・ミュージカル『葉っぱのフレディ』の作曲を手がける島健さん。ピアニスト、作曲家、編曲家として、すでに多方面で実績を残してきた方だが、ミュージカル・ファンには、先日リヴァイヴァル上演された『ザ・リンク THE RINK』の音楽監督として、また、ミュージカル女優・島田歌穂さんの旦那様として、おなじみだろう。
 この夏リリースされたソロ・アルバム『BLUE IN GREEN』(ヴィレッジ・レコーズ)は、自身のピアノ即興演奏を、自らアレンジしたストリングスで彩るという、ユニークなアイディアによる美しい作品集だったが、今回の『葉っぱのフレディ』の音楽も、島さんのピアノと弦楽四重奏の組み合わせ。その仕上がりへの期待に、胸がふくらむ。
 その島さんに、ミュージカルとの出会いや、『葉っぱのフレディ』にかける意気込みなどを語っていただいた。
 なお、お話をうかがったのが、『葉っぱのフレディ』がまだ制作途中の 6月下旬なので、話が細部には及んでいません。その辺は、劇場に足を運んで、ぜひご自分の目で確かめてください。

――ミュージカルは昔からお好きだった?

 偶然、歌穂もそうだったんですけど、僕もやっぱり、『ザッツ・エンターテインメント THAT'S ENTERTAINMENT!』っていう映画ありましたよね、あれが……彼女はけっこう子供の頃で、僕は20いくつぐらいの頃なんですけど、あれを観たところから、「あっ、けっこうミュージカルっていいな!」ってなってるわけですよ。
 特に、あの中に、フレッド・アステア Fred Astaire とエリノア・パウエル Eleanor Powell の、「ビギン・ザ・ビギン Begin the Beguine」のタップ・シーンがあるんですね、『踊るニュウ・ヨーク BROADWAY MELODY OF 1940』からの抜粋で。あれは、涙が出るほど感動しました。
 で、それから、ミュージカルってすごいなって思うようになったんですけど、その当時はまだ、ヴィデオが普及してる時代じゃなかったし、観たくても観られない。日本じゃ。そういう古い映画を観る機会がどこにもなかったし。だから、ただ『ザッツ・エンターテインメント』だけで、そういうもんがあったんだなあって思ってて。あと、和田誠さんの「お楽しみはこれからだ」っていう本ですね。あれを読んで、ああ、こういう映画もあったのかって。
 ところが、78年に僕はロスに行ったわけですけど、行ったらば、TVでそういう古い映画、ガンガンやってるわけですよ。アーッて思うような。これ、和田さんの本に出てたあの映画だっていう感じで。
 それから、やっぱりハリウッドですから、ニューアートっていう名画座みたいな、古い映画をずっとやってる映画館があって、そこでねえ、 1か月間“MGMミュージカル特集”とか、すごいんですよ、もう。 50何本バーンと毎日やるわけですよ。  こんなデカい写真入りのスケジュールがあって、それをチェックしながら、これ絶対観たい、これ絶対観たいって。それで、ずいぶんいっぱい観たんですね、昔のミュージカルを。今は、ヴィデオが出てて観られますけど、当時はほんとに観る方法がなかったんで。だから大喜びで、宝庫だ宝庫だと思って観まくって。
 中では、やっぱり『バンド・ワゴン THE BAND WAGON』とか……あと、これはみなさん意外に挙げないけれども、『絹の靴下 SILK STOCKINGS』とか。シド・チャリース Syd Charisse が非常に……彼女はカッコいいですねえ。
 あの『雨に唄えば SINGIN' IN THE RAIN』の中のシーンも素敵だけど、『バンド・ワゴン』の中の、最後の方のあの、ギャングの情婦みたいになってフレッド・アステアと踊るシーンが、赤いドレス着て。あれがもう、あまりにもカッコよくて。
 『絹の靴下』は、シド・チャリースの魅力はもちろんなんだけど、音楽とかその、ミュージカル的な、そういうシーンの作り方っていうのも、けっこういいところがいっぱいある。ロシアで踊るシーンで、彼女がピアノを、バン、バン、バン、バ、バーン! って叩いてカウントをとって音楽が始まる、けっこうジャジーなダンス・ナンバーとか(「ザ・レッド・ブルース The Red Blues」)、そういう音楽とミュージカル・シーンの作り方の、カッコいい、粋さって言うか、すごく好きですね。
 『絹の靴下』『バンド・ワゴン』『雨に唄えば』とかは、まあ月並みだけど、とても好きですねえ。
 『巴里のアメリカ人 AN AMERICAN IN PARIS』は、そんなに好きじゃない(笑)。

――舞台ミュージカルはいつ頃から?

 生の舞台に接したのは、実はけっこう後なんですね。いたのがロスだったから、そんなには、ねえ、ブロードウェイほどバンバンやってるわけじゃないし。
 でも、『コーラスライン A CHORUS LINE』とか、『ピーター・パン PETER PAN』だとか……。サンディ・ダンカン Sandy Duncan の『ピーター・パン』も一応観ましたし、ま、けっこう、そこそこ観たんですけど、でも、ホントにブロードウェイのものを頻繁に観に行くようになったのは、むしろ日本に帰ってきてからで。ここ 10年ぐらいですかね。
 ブロードウェイで最初に観たのは……恥ずかしながら『キャッツ CATS』だったかな(笑)。いや、違うわ。『フォーティセカンド・ストリート 42ND STREET』だ。それが、 80年代半ばぐらいですね。
 で、『キャッツ』は観てなかったんで、ま、やっぱりなんか、観光客となって(笑)、一応は観ようかと思って観たけど……つまんなかった(笑)。
 個人的な好みとしては、ロイド・ウェバー Andrew Lloyd Webber は、僕は、イマイチ……。結局、僕の中では、やっぱりジャズがずーっと……だから、アメリカの、フレッド・エブ Fred Ebb と組んでるジョン・カンダー John Kander とか、それからサイ・コールマン Cy Coleman とか、ああいうジャズの雰囲気のあるミュージカル音楽が好きなんで。ロイド・ウェバーは、やっぱりちょっと。全然そういう意味じゃまるで違うじゃないですか。ものすごいプロフェッショナルだとは思うけど(笑)。
 例えば『キャッツ』のタップ・ダンスのシーンにしても、それからショーンベルグ Claude-Michel Schonberg の『ミス・サイゴン MISS SAIGON』にしても、アメリカのヴォードヴィルっていうか、ああいうショウのシーンになると、ちょっと足が地に着いてないっていうか(笑)。
 あと、ロイド・ウェバーは、けっこうよく言われてることで言うと、わりとクラシックの……オペラのパクリとかが多いっていう。それは、実際かなりあるみたいで。  ま、そんなことは、音楽家としてあんまり言えないけど(笑)。僕だって、パクリっていうんじゃないけど、やっぱりね、そりゃ(笑)。このイメージかなって思って、そこから発想されてくるっていうのは、よくありますからね。
 ロンドンにも、もちろん何度も行きまして、けっこう舞台を観てます。
 えっと、こないだ行った時にね、ごめんなさい、タイトル忘れちゃったなあ。 2ピアノで、いかにも古き佳きアメリカのアメリカン・ミュージカル的なのをロンドンでやってて。ま、それはそれなりにけっこう楽しめましたけど。タイトル忘れちゃったんで話にならないですけど(笑)。それはけっこう面白かった。小さいながらも、非常にシャレた、ジャズの雰囲気のあるミュージカルでしたよ。出演者もなかなか芸達者だし、みんな。あー、ロンドンでもこういうこともやってるんだな、と。
 でも、やっぱりロンドンは、お芝居の方が、よりクオリティが高いとは思いますね。あの、なんでしたっけ、『レ・ミゼラブル LES MISERABLES』チームの第 3弾ミュージカル……、『マルタン・ゲール MARTIN GUERRE』! ……あれはちょっとねえ(笑)。

――舞台ミュージカルでお好きなものは?

 そうだなあ、何だろうなあ。けっこう『シー・ラヴズ・ミー SHE LOVES ME』は好きでしたねえ。うーん、けっこう観てるから、すぐには思い出せないけど(笑)。なんだろう。

――ミュージカル・コメディのようなものがお好きですか?

 わりとそうだと思います。だから、『レ・ミゼラブル LES MISERABLES』的なものは、僕の中のミュージカル観としては、ちょっと違うなっていう(笑)。
 ミュージカルは、あんまりああいう重たい題材を持ってきても、あれはさ……、『レ・ミゼ』の場合は、どっちかって言うとオペラでしょ。オペラを思いっきり……(笑)。オペラは重い題材ばっかりだけど、それに対してオペラ・ブッファが生まれて、やがてミュージカル・コメディになったことを考えてみると、やっぱり、もう少し軽やかなコメディ……歌って踊って楽しいものってのがミュージカルっていう……。元々そうだったんだし、僕もやっぱり、自分が観てきて楽しかったのはそうだったしねえ、やっぱり。
 『ザッツ・エンターテインメント』の時代ですよね。あれこそがやっぱりミュージカルだな、っていうのが、もう古い考え方かもしれないけど(笑)、やっぱりそういうものが根本的にありますね。
 『シー・ラヴズ・ミー』がすごくよかったのは、久しぶりに、なんかそういいうミュージカルの楽しさっていうか、本来のミュージカルの原点みたいな感じが、あの作品には非常にあったので。ああいうのがミュージカルだろう、と、僕はそう思うんですよ。
 『アニーよ銃をとれ! ANNIE GET YOUR GUN』『キス・ミー・ケイト KISS ME, KATE』になると、ちょっと今さらって感はありましたけど。やっぱり作品がどうしても古いから。だけど、どうしてそういう新作が出来ないのかねえ。それは不思議ですよ。

――日本のオリジナル・ミュージカルにとって、楽曲のオリジナリティが重要になると思うのですが。

 これはもう、僕は音楽家として言えば、日本人がジャズをやる、日本人がクラシックをやる、っていうことも、突き詰めていくと、いろいろな、考えなきゃいけない点が出て来ちゃうんだけど……。オリジナリティと、あと、日本人としてのアイデンティティっていう。
 で、やっぱり僕は、アメリカに住んで……住んだ時に初めて、やっぱりそういうことに、気がつくって言うか、考えさせられる。
 日本にいると、自分は日本人なんだって意識する機会はまずないでしょ。だけど、向こうで生活してれば、もうホントに、けっこう人種差別的なことも体験するし、常に自分が、アジア人、東洋人ていうことを、毎日のように意識せざるを得ないわけですよ。そういう中で、そういう自分がアメリカの音楽をやるっていうことの、自分の中での理由がほしいっていうか、その辺がね、うん……。けっこう悩んだこともありましたけどね。
 だからと言って、三味線とか琴とか和太鼓とか使って、とりあえず物珍しさでウケてる人も何人かいたんですけど、そういうことはやりたくないし、もちろんね。自分たちの体に染み込んでいるっていうのとは、ちょっと違うからねえ。
 そういうことじゃない部分で、日本人のアイデンティティとかそういうことはどうすればいいんだろうって。
 ただね、それで僕が悩んでた頃に、バンドのドラマーと話してて、「日本人であるということを、音楽の中で何か表現しなくちゃいけないんじゃないかって悩んでるんだ」みたいなことを言ったら、彼が――アメリカ人の黒人のドラマーなんですけど――、「何を言ってんの」って、「おまえのピアノは、日本人じゃなきゃ弾けないピアノを弾いてるでしょ、おまえはアメリカ人と違うピアノ弾いてるじゃん」って言われて。
 これでね、あ、そうだったのかなって、一気に楽になったんですね。要するに、オリジナリティとかそういうものってのは、考えて頭で作るようなもんじゃないですから。彼らからしてみれば、僕の弾くピアノが、やっぱりアメリカ人の弾くピアノとは違って聴こえてた。だったら別にいいんじゃん、自然にやってれば、っていう。
 それが、けっこう大きな、僕の中で非常に大きな出来事だったんですけど。ま、それから割と楽になって、あんまり深刻に考えることはないんだな、自然にやってれば、どこかしら日本人である感性というものは出てくるんだろう、と思うようにはなったんですけど。
 まあ、どれだけの人がそう感じてくれるのかはわかんないけど。ドラマーの彼は、たまたまそう感じてくれたのかもしれないし。その辺はわかりませんけど。
 でも、例えばこういう話もあって。これは和田誠さんから聞いたんですけど、八木正生さんて、もう亡くなっちゃった方ですけど、彼がアメリカでレコーディングした時に、一生懸命自分がジャズとアメリカの音楽をやっているつもりでアレンジしてたのに、アメリカ人から、「非常にオリエンタルなサウンドですね」って誉められて、非常に複雑な思いをしたという(笑)。
 だから、それは、アメリカ人にしてみると、ちょっとエキゾティシズムと言うか、そういうフィルター通して見ちゃってるかもしれないところもあるんですよね。東洋的なものに対する彼らの憧れ、みたいな。
 でも、絶対、外国に出ると、初めて自分が日本人であるということを強烈に意識する。それは、まず、それまで体験したことのないことなんですよね。外国に行った時に初めて気がつくんですよね。だから、やっぱり、そこから日本人としてのアイデンティティっていうようなことを考えるようになるんだと思いますけどね。

――ミュージカルの作曲をなさるのは、今回の『葉っぱのフレディ』が初めてですか?

 作曲するのは初めてです。
 ずっとやりたいとは思ってましたけど、なかなか機会もなかったので。

――『葉っぱのフレディ』は、題材としては非常に抽象的で、日本人がどうとかって、あんまりないですよね。

 うん、そういう意味では、僕は、いい題材だなと思ってるんですよね。それこそ、日本人だとかアメリカ人だとかっていうことを超越したテーマだし、設定を、どうにでも出来るというか、国とかそういうことじゃないですからね。
 ま、元々僕は、日本人がオリジナルのミュージカルを作るとなると、さっき話したような音楽的な面を含めてですね、舞台をハッキリと、日本とかアメリカとかってしちゃうとむずかしいと思ってたんです。どこだかよくわからない、場所とかあんまり限定しない、人種も限定しないような題材っていうか、そういうところでないと、むずかしいんじゃないかっていう風に思ってて、なんかそういうファンタジックな話っていうのでやるのがいちばんいいんじゃないかなって、前から考えてたんですね。  そういう意味では、ドンピシャの題材ではないかなと思うんです。
 でも、コメディじゃないので(笑)。いちばんむずかしいのは、原作のテーマは死じゃないですか。死というものを、子供にある程度意識させるという、そういうのがテーマなわけですから。それを舞台でやるとなると、葉っぱでやるわけにいかないですからね。どうしても人間に置き換えなきゃならない。そうすると、どうしても死ななきゃならないですから、もう、まず、さっき言ってた、なんでミュージカルで死ななきゃなんないんだよっていう重い話になっちゃいますから(笑)。元々がそういう話なんで、しょうがないんですけど。
 だから、それを、出来るだけ僕は、ファンタジックに、あんまり現実的なものじゃなく、あくまでファンタジーの世界で表現したい、と。

――作曲なさる時には、どんな音楽にしようかという全体的なイメージみたいなところから入るわけですか?

 そうです。
 とりあえず、詞とかがまだない段階で、大筋の台本の第 1稿とか第 2稿とかの段階で、なんとなく全体の音楽のイメージを、一応僕がちょっと、 1、 2曲、っていうか、なんとなくオーヴァーチュア的なものでちょっと書いて、僕のイメージはこんな感じなんですけど、ってことで一応、脚本家と作詞の方とに聴いていただいて、で、まあ、とても、ああ、こういう感じだったらバッチリだろうっていう、まあ話には、今なってるところですけど(笑)。
 ホントに具体的な作曲はこれからなんですけど。

(interviewed on 6/29/2000)

 『葉っぱのフレディ』の公演は、 8月 17日から 8月 27日まで東京グローブ座で。
 ●出演/島田歌穂、畠山久、山形ユキオ、詩乃優花、杉江真、史桜
 ●台本・演出/忠の仁 作詞/山川啓介
 ●全席指定/前売り 4,500円 当日 5,000円
 ●問い合わせ/K-LINKS Tel 03-3583-3951
  http://www.k-links.com/kaho/index.html

(8/15/2000)

Copyright ©2000 Masahiro‘Misoppa’Mizuguchi

previous/next


[HOME]